男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。
出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。
—あの時、彼(彼女)は何を思っていたの…?
誰にも聞けなかった謎を、紐解いていこう。
さて、今週の質問【Q】は?
▶前回:「ただの同期だよね…?」彼氏をタグ付けした女のインスタに感じた、拭えない違和感
「真由ちゃん、僕たち付き合わない?真剣に将来を見据えて」
そう告げられた瞬間、私は思わず目を丸くして、固まってしまった。
慶は、六本木に大きなオフィスを構える法律事務所で働いている33歳の弁護士だ。
彼とは、港区のワインバーで初めて会った。その時、シワひとつないシャツに黒のジャケットを着ており、どこか鋭くでも知的さを感じられる眼差しが印象的だった。
そんな彼の第一印象は、「難しそうな人だな」だった。
でも話してみると、案外フランクで。「弁護士ってもっと堅そうな人ばかりかと思っていた」と正直に言ったら、「よく言われます」と笑っていた。
その夜から3ヶ月、5回のデートを重ねた後、ようやく「付き合おう」という言葉を言ってくれた。
しかし4度もデートをしたのに、何も進まず、半ばもう諦めていた。
それなのに、どうして彼は5度目のデートで、急に交際を申し込んできたのだろうか。
慶との出会いは、大学時代の先輩の紹介がキッカケだった。
29歳になり、私は結婚に少し焦り始めていた。そんな私を見兼ねて、先輩が「僕らと同じ大学出身なんだけど、面白い独身の弁護士がいるから、一度会ってみなよ」と出会いの機会を作ってくれた。
そして先輩と慶の三人で、金曜の22時から、『apéro. wine bar aoyama』で落ち合うことになった。
「初めまして」
想像以上に慶はガタイが良くて、驚いた。失礼ながら、弁護士さんと聞いていたので、勝手に細身の男性を想像していたから。
「あの…何か、運動されていたんですか?めちゃくちゃ体格良いですよね」
そう聞くと、慶は急に目を輝かせた。
「え?わかりますか?最近、運動頑張っていて」
「そうなんですね」
意外だった。見た目こそ隙のない雰囲気だったが、会話は思った以上に自然だったし、可愛げもある。しかも仕事の話をしていると、こちらの話を遮らずにきちんと聞いてくれる。
「IT系の営業って、何をするんですか?」
「色々とあるんですけど…」
こうして、すっかり打ち解けたこの夜、私は慶と連絡先を交換した。そして、翌日には、もうLINEが来ていた。
― 慶:昨日はありがとうございました。良かったらまたご飯でも。
「さすが、早い」
そう思ったけれど、悪い気はしない。
1回目のデートのあとも、順調に進み、2回目のデートは神楽坂の鉄板焼き屋さん、3回目は代官山を散歩した後にフレンチへ行った。
「じゃあ慶さんは、いつか独立されるんですか?」
「うん。やっぱりいつかは自分の事務所を作りたくて」
「すごいですね!応援します」
「ありがとう。そう言ってもらえると、心強いよ」
会うたびに話が深まっていく感じがして、私も少しずつ彼のことが気になり始めていた。
ただ一つ引っかかっていたのは、彼のペースだ。
この、3度目のデートの帰り道、今日もあっさりと、地下鉄の入り口で解散しようとしている慶。
「じゃあ、僕はここで。真由ちゃん、本当に電車で帰るの?気をつけて帰ってね」
「え?は、はい…」
デートの鉄則を、彼は知らないのだろうか。3度目のデートまでに何もなかったら、それは“何もない”ということだ。
― え?私に興味ないの?
毎回地下鉄の入り口まで見送ってくれる。でも一度も、彼から「送って行こうか?」と言われたことはない。
それに、いまだに距離感もある。一緒にご飯を食べても恋愛の話にならないし、彼の家は、今まさに私たちがいる代官山なのに、「家に来る?」とも言わない。
― これは、この先進まないパターンか…。
そう思い、がっくりと肩を落とす。
実家のある駅まで電車に揺られながら、私は投げたボールをスルーされた気がして、どこかモヤモヤした気持ちを抱えていた。
しかし、慶がわからないのは、それ以降もデートに誘ってくることだ。4回目のデートも、慶から誘ってきた。
― このデートの、意味は何?
お誘いのLINEを見ながら、私は思わず心の中でそう叫ぶ。
しかしもちろん、慶に惹かれている自分もいる。
― これは…まさかの、私からプッシュするパターン?
そんなことを考えるが、実際に慶に会うとアプローチできない自分がいる。この日も二人で食事をし、今日は珍しく2軒目へ行くことになったので、思いきって手でも繋ごうかと思った。
でも、やっぱり何もできない。
「このワイン、美味しいですね」
そんな、どうでも良い言葉ばかりが出てくる。
カウンターの下で急に彼の手を握ったりしてみたいけれど、残念ながら、そんな勇気はない。
そんなことをあれこれ考えているのを悟られないように、私は目の前にある赤ワインのグラスを静かに回す。
すると、慶はいつもの感じで、穏やかな口調で微笑む。
「真由ちゃん、赤ワイン派だもんね」
「そうなんです。慶さんも、ですよね?」
「そうそう」
「お家でも飲むんですか?」
「いや、一人では飲まないかな。家に誰か来たりしたら飲むけど」
― 家に誰か呼ぶ…?それは、どういうこと?誰か女性ってこと?
頭の中でグルグルと質問が回る。でも、これも何も言えない。
「へ〜そうなんだ。慶さんのことだから、オシャレなお家なんでしょうね」
「いや、めっちゃシンプルだよ。物がほとんどないし」
ここで、慶から「良ければ、うち来る?」とか言ってくれれば、喜んで行く。まだ付き合ってはいないけれど、今日でもう4度目のデートだ。
そろそろいいタイミングのはず…。
でも真面目なのか、私に興味がないのか、彼からお誘いの言葉はまったく出てこない。
「そうなんだ」
なるべく平静を装って答えてみるけれど、色々考えすぎて頭が沸騰しそうだ。
「真由ちゃんは?お家はどんな感じなの?」
「私はお恥ずかしながら実家なので…」
「麹町だっけ?」
「そうなんです。そろそろひとり暮らしをしないと、とは思っているんですが」
私の会社は赤坂見附にあるため、実家を出る理由がない。そこに甘えて、結局私はずっと実家にいる。
「まあいいんじゃない?それに、真由ちゃんは頑張って働いているワケだし。これで何も働いていなかったらアレかもだけど…。でも、ご両親厳しそうだね」
「いや、全然ですよ」
「でも大事に育てられたんだろうな、というのが伝わってくるよ。真由ちゃんは、どんな相手となら結婚できそうなの?」
唐突だな、と思いながらも正直に答える。
「嘘をつかない人と、対等でいられる関係、ですかね。あと、一緒にいて楽でいられる人」
「楽、というのは?」
「背伸びしなくていい感じ、とでもいうか。自分が自分でいられる、みたいな」
「なるほど。わかるような、わからないような…」
「どちらかが無理をする関係は嫌だなと思います」
慶はその答えを聞いて、少し笑った。何を考えていたのかは、わからなかった。
そして5回目のデートは、六本木のイタリアンだった。仕事帰りに落ち合い、ワインを飲みながら会話をしていた。
しかし食事が終わる頃、慶が静かに口を開いた。
「真由ちゃん、僕たち付き合わない?真剣に将来を見据えて」
思っていなかった言葉ではなかった。でも、いざ面と向かってそう言われると、心の準備が追いつかない。
「はい…」
そう答えたものの、慶は私のどこを見て、そう決めたのだろう。それに、そもそもいつから私のことを「いい」と思ってくれていたのだろうか。
結局その答えがわからないまま、交際はスタートした。
▶前回:「ただの同期だよね…?」彼氏をタグ付けした女のインスタに感じた、拭えない違和感
▶1話目はこちら:「あなたとだったらいいよ♡」と言っていたのに。彼女が男を拒んだ理由
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男が5度目のデートまで動かなかった理由は?

