「校則」といえば、学校が生徒を縛る“法律”のイメージがあるかもしれない。髪型や服装など、自由を制約する象徴のような存在だが、実は、生徒の「できる」権利を校則に明記することで、教員といえども勝手な指導をさせないようにもできる。
県庁職員から教員免許なしで、異動を命じられ、県立高校の校長となった川田公長氏はその当時、学校の理不尽なルールに憤慨し、校則の一部を緩和したという。
生徒の選択肢を増やす、意外に知られていない“校則改正”のやり方とは…。
※この記事は川田公長氏の書籍『素人校長ばたばた日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。記事内の登場人物は仮名です。
生徒に理不尽な対応する教員
私の勤めていた高校には、生徒が職員室に入る際のルールがあった。
「○年○組の○○です。△△先生はいらっしゃいますでしょうか?」
生徒はこう大声で呼びかけ、名前を呼ばれた教員が返事をすれば入っていいことになっていた。
職員室には生徒の個人情報があふれている。教員が電話をしていたり、ほかの教員と話し合っていたりすることも多い。そのため、このルールが設けられているのはわからないでもない。
しかし、私はあるときこんなシーンを目にした。
「2年1組の尾形です。沼田先生はいらっしゃいますでしょうか」
ルールに沿って生徒が呼びかけるが、返事がない。私は沼田教諭が席を外しているのかと思ったのだが、自席に座っている。
「2年1組の尾形です。沼田先生はいらっしゃいますでしょうか」
生徒は再び呼びかけたが、沼田教諭は答えない。沼田教諭は明らかに気づかないふりをしているのだ。たしかに生徒の声はそれほど大きくなかった。もっと大きな声で呼びかけろというわけなのだろう。
「2年1組の尾形です。沼田先生はいらっしゃいますでしょうか」
生徒が3回目の呼びかけをしたとき、もう我慢ができなくなった。
「沼田先生! 生徒が呼んでいますよ!」
私がそう大声で呼びかけると沼田教諭はようやくそこで生徒に向かって合図をして入室を促した。さも今気づいたような顔をして。そのルールの理不尽さにうんざりした。
こういう話をすると、たまに「学校は社会の理不尽さに耐えるための勉強をする場でもある」などと言う人がいる。そんなことはない。ただ教師が偉そうにしたいだけではないか。
日本で最初の校則
校長に着任してから、私は日本で最初の校則がどのようなものだったのかを調べた。
明治5年、近代的な学校制度を定めた教育法令「学制」が公布され、翌年には師範学校で「小学生徒心得」が制定された。これが日本初の校則とされている。
最初の校則を実際に読んでみればわかるが、「学校は社会の理不尽さに耐える勉強をする場」などという考えで作られたものではないことは明らかだった。
日本国憲法第9条には「地方公共団体は(略)法律の範囲内で条例を制定することができる」とある。この条文は、都道府県や市町村などの地方公共団体は条例を制定する権利があることを表している。これを法令用語で「できる規定」といい、法律や条例でよく使われる言い回しである。
同様に、校則でも生徒の権利を定めることができる。生徒の「できる」権利を校則に明記することで、教員といえども勝手な指導をさせないようにできるのだ。
校則を読み直し、規定を緩和
わが校の校則を読み直し、改正すべきものがないか検討したところ、気になる項目がいくつか見つかった。
まず、女子生徒の前髪について、わが校の校則では「目にかからないようにすべき」とされていた。この校則により、中学までマチマチだった髪型が、高校入学を機にいっせいに画一化していたわけだ。
全国の校則を調べてみると、「目にかからないようにすべき」とする規定があった。この規定は「眉にかからないようにすべき」とするものにくらべれば、ゆるい。しかし、そういうことではない気がした。
考え直して、従来の「眉にかからないように」という規定は維持しつつ、新たに「ヘアピンで留め、眉にかからないようにすることができる」という規定を追加することにした。生徒のおしゃれの自由を広げたいと思ったのである。
次に、服装である。「夏期には夏服、冬期には冬服、それ以外には合服を着用すること」とあったが、本校にはリストカットの経験があり、手首の傷を気にして半袖の夏服を着るのを嫌がる女子生徒が数名いた。このため、季節を区切らず、「(制服の範囲内で寒暖に応じて)組み合わせて着用することができる」と定めることとした。
靴下については、女子生徒が「黒色や紺色のハイソックス」とされているのに対し、男子生徒は「白色、黒色、紺色の靴下」とされていてなんとなく不公平だと感じた。
よく聞くと女子生徒は体育の時間は白の靴下に履き替えるという。ハイソックスに限定するから履き替えの手間が必要になるのだ。公平に、男女とも「白・黒・紺色の無地またはワンポイント、ワンラインの靴下」と定めた。
まだある。通学バッグは、ファーストバッグとセカンドバッグの2種類あり、セカンドバッグだけでの通学は認められていなかった。しかし、指定のバッグにもかかわらず、単独で使うことが許されない理由がよくわからない。「ファーストバッグまたはセカンドバッグを使用することができる」とし、セカンドバッグだけでの登校を許可することにした。
校則にはほかにも、
- マフラー、ネックウォーマーおよび手袋を着用して登校することができる
- 日傘またはアームカバーを使用、または着用して登校することができる
などを追加することとした。
このように生徒たちの権利を定め、そのことを広く公表してしまえば、教員たちが勝手なことをできなくなる。必要なのは、根拠の明文化と情報公開なのである。

