異動命令に従わず「欠勤」続けた社員の解雇は無効 裁判所が会社に「給料1年10か月分」の支払いを命じた理由

異動命令に従わず「欠勤」続けた社員の解雇は無効 裁判所が会社に「給料1年10か月分」の支払いを命じた理由

異動命令に納得できず、欠勤を続けた社員の事件を解説する。

会社はその社員を懲戒解雇したが、裁判所は「懲戒解雇は無効」と判断。

理由は、「異動命令が無効なのだから、欠勤には正当な理由がある」というものだ。

以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは、居宅介護支援事業などを行っている会社で、清掃業務に従事していた。

■ 7日間の出勤停止
入社から約5年後のことである。会社は、Aさんに対して、7日間の出勤停止処分を行った。処分の理由は、①発熱時の対応、②同僚への発言、③シフト表の写真撮影の3つである。会社側の主張によれば、詳細は以下のとおりだ。

①発熱時の対応
Aさんが新型コロナウイルスに感染している可能性があったため、会社は検温するよう指示した。しかし、Aさんは素直に従わず、30分以上事業所に滞在し続けた。

②同僚への発言
Aさんは、会社から私語をしないよう注意を受けていたにもかかわらず、同僚に対して「自分がここで清掃業務に配属されたのには何か意図があるんでしょうか?」と話しかけた。

また、同じ事業所内の、自身以外の職員のシフトを確認して、辞めた職員がいることについて自己の見解を執拗に管理者に話し続け、多忙な管理者の業務を妨害した。

▼具体的な発言内容
「休みが少ないですが、大丈夫ですか」
「他の管理者はしっかり休んでいるのに、あなたは休んでいないですね」
「○○さんはなぜ辞めたんですかね。何があったんですか」

③シフト表の写真撮影
Aさんは、キッチンに掲示されたシフト表の写真を自己の携帯電話で撮影した。これをもとに、他の従業員に対し、別事業所からの応援について自己の見解を述べた。

▼具体的な発言
「大丈夫ですか」
「○○さんはなぜ休んでいるんですか。何があったんですか」

以上の3つの出来事を理由に、会社は、Aさんに対して、7日間の出勤停止処分を行ったのである。その期間、Aさんの賃金は支払われていない。

■ 異動命令
その約10日後、会社は、Aさんに対して、グループ会社への異動命令を出した。しかし、翌日、Aさんは拒否。異動命令を前提としないシフトとするよう求めた。しかし、会社は拒否した。

異動命令に納得できないAさんは、その日から欠勤をした。

■ 懲戒解雇
すると、約1か月後、会社はAさんに対して、「異動命令に従わず無断欠勤を続けていることが懲戒事由にあたる。退職願を提出するのであれば諭旨解雇(※)、提出しないのであれば懲戒解雇する」と通知した。

※会社が退職勧告を行い、対象者がこれに応じて退職する場合。自己都合退職の形をとるので、退職金制度があれば退職金が支払われる。

Aさんは退職願を提出しなかったため、会社はAさんを懲戒解雇。そして、その有効性が裁判で争われることになった。

裁判所の判断

Aさんの勝訴である。裁判所は「7日間の出勤停止処分は無効。約2万円を払え」「懲戒解雇も無効。約1年10か月分の賃金を払え(いわゆるバックペイ)」と判断した。順に解説する。

■ 出勤停止処分は無効
会社が出勤停止処分の理由として挙げた3つの事由について、裁判所は「その事実は認められない」と判断した。

①発熱時の対応

  • 検温には応じていた
  • 会社の指示に従い帰宅している
  • 30分以上、事業所に滞在した事実は認められない

②同僚への発言

  • 「自分がここで清掃業務に配属されたのには何か意図があるんでしょうか?」と話しかけた事実は認められない
  • 自己の見解を執拗(しつよう)に管理者に話し続けた事実は認められない

③シフト表の写真撮影

  • 写真撮影した事実は認められない

会社は、従業員2名の陳述書を証拠として提出し、Xさんの行動を裏付けようとしたが、裁判所は「法廷に出てきて供述していないのであるから、たやすく信用することはできない」と判断した。

■ 異動命令も無効
裁判所は、「異動できる旨を明確に定めた規定がない」ことを理由に「異動命令は無効」と判断した。

異動を命じるためには、そもそも根拠規定が必要である。ほとんどの会社には異動を命じる旨の規定があるが、この会社にはなかったようだ。

■ 懲戒解雇も無効
Aさんは、異動命令を前提としないシフトを求めたにもかかわらず、会社はこれを拒否した。なのでAさんは欠勤を続けた。

これが無断欠勤にあたるか?であるが、裁判所は「異動命令は無効なのであるから、Aさんの欠勤には正当な理由がある」と判断。そして「無断欠勤ではないので、これを理由とした懲戒解雇は無効」と結論づけた。

最後に

仮に異動命令できる旨の規定があったとしても、本件の異動命令は無効になった可能性がある。その前の出勤停止処分を基礎づける事実が認められず、Aさんに非違行為はなかったと認定されているからである。特段、会社の運営上、理由がないにもかかわらず、何ら非違行為がない従業員に異動を命じることはできない。

違法な異動命令に対して、欠勤で対抗して勝訴した一例である。ご参考になれば幸いだ。

配信元: 弁護士JP

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