
多くの親にとって、子どもにはできるだけよい教育環境を用意してあげたいと思うものです。しかし近年は晩婚化や出産年齢の上昇もあり、家計管理を誤ると想定以上に厳しい事態に直面する可能性もあります。
47歳で父になった男性、65歳で直面した“想定外の家計”
「私、奨学金借りないといけないの? ……なんで?」
大学進学を目前にした娘にそう言われ、山口和彦さん(仮名・65歳)は言葉を失いました。
山口さんは首都圏の建設関連会社で長く働いてきた会社員。結婚したのは45歳のとき。妻は10歳年下で、結婚から2年後、47歳でひとり娘が生まれました。
「この年で父親になれるとは思っていなかった。目に入れても痛くないほど。できることは全部してやりたいと思ったんです」
他の父親に若さではかなわない。どこか引け目のようなものもあったかもしれません。娘は小学校から私立に進学。塾や習い事にも通わせました。中学受験も経験し、そのまま私立の中高一貫校へ。娘が小学校に入る頃、通学時間を減らすために駅近のマンションを購入しました。
しかし、そこまでの資金を捻出できる収入とはいえませんでした。山口さんの年収は40代後半で800万円台。50代半ばで役職定年となり、収入は徐々に減少。60歳の定年後は嘱託社員として働き続けましたが、年収は400万円ほどまで下がっていったのです。
一方で、妻はパートで週3日ほど働いていましたが、正社員になったり、勤務時間を増やしたりすることはありませんでした。というのも、結婚時、山口さんは同世代の中でも高収入。さらに家計管理も山口さんがしていたため、妻は貯蓄額や住宅ローン残高などの詳細を知りません。「年上でしっかりしている夫に任せていれば大丈夫」と信頼していたのでしょう。
しかし、教育費は想像以上に膨らみました。 私立中高の学費、塾代、修学旅行費、部活費用に定期代など。気づけば、独身時代に貯めていた貯金はほとんどなくなり、60歳で受け取った退職金も住宅ローン返済や教育費、日々の生活費の補填で大きく減っていました。
家族に状況を話せないまま、「年金生活者」という現実が一気に迫ってきます。山口さんの年金は月18万円ほど。妻のパート収入と合わせても、世帯収入は月25万円程度の見込みです。
しかし、住宅ローンの返済はまだ残っており、娘は私立大学への大学進学を控えています。自分たちの老後資金どころではありません。
「もう、どうにもならない……」
ついに通帳を妻に見せた山口さん。残高は200万円を切っていました。 妻は絶句。そして、何もしらない娘にも、冒頭のように「奨学金を借りてほしい」と頼むしかありませんでした。
晩婚時代の家計管理は「より一層の慎重さ」が必要
こうしたケースの背景には、日本で進む晩婚化と出産年齢の上昇があります。 厚生労働省の人口動態統計によると、平均初婚年齢は1975年には夫27.0歳、妻24.7歳でしたが、2023年には夫31.1歳、妻29.7歳まで上昇しています。
また、第一子を出産する母親の平均年齢も上がり続けており、1980年には26.4歳だったのが、2022年には30.9歳に。さらに2022年の出生数を見ると、出産の約6割は30代の母親によるものです。40代の出産も約4万8千人と、決して珍しいものではなくなっています。
もちろん、晩婚そのものが問題というわけではありません。しかし、結婚や出産が遅くなるほど、教育費・住宅ローン・老後資金といった大きな支出が短期間に集中する傾向があります。例えば45歳で子どもが生まれた場合、その子が大学に進学する頃には63歳。現役収入が減り始める時期と、教育費のピークが完全に重なることになります。
山口さんは「娘のため」といいながら、無茶なやり繰りをしてきたツケを払わなければなりません。その影響は、何より大切な娘にまで波及することになりました。
晩婚化が進む時代、人生設計の時間軸は確実に変わっています。子どもの教育と自分の老後。その両方を守るためには、これまで以上に早い段階から資金計画を考えておく必要があるといえます。
