知識があるのに自分の不調に気づけない理由
知識があるはずの医療・福祉従事者は、なぜ自身のメンタル不調に気づきづらいのでしょうか。佐々木さんは次のように指摘します。
佐々木さん
「医療・福祉従事者は、体のことを学んできたという自負があります。また、職種によっては周囲に相談できる専門家(同僚や先輩)がいるという安心感もあるかもしれません。そうしたことが、結果として『自分は大丈夫』という過信につながり、SOSを見逃す要因になることがあります。
また、患者や利用者に常に向き合っていることも影響しています。相手への使命感や自己犠牲の精神が強いほど、自身の疲労を後回しにし、客観的な判断を難しくさせてしまうのではないでしょうか」
さらに、業務をおこなう体制も影響していると話します。
佐々木さん
「多職種連携やチームワークは、医療・福祉分野では必須です。近年の業務は複雑化しているため、一つの業種で解決するのが困難な事例が多くなっています。自分の業務が終わっても『あの患者さんはその後どうなったか』『引き継ぎは十分だったか』などと気になり、心理的に仕事から離れにくいのが実情です」
限界を迎える前にできること
医療・福祉職のメンタル不調は、過酷な労働環境や専門職ゆえの責任感、チーム体制など複数の要因が絡み合って起こります。では、限界を迎える前に個人としてできることはあるのでしょうか。佐々木さんは大きく2つのことを意識してほしいと話します。
仕事を意識的に切り離す「心理的ディタッチメント」
佐々木さん
「医療・福祉分野では、日勤以外にも準夜勤、深夜勤、夜勤、オンコールなどさまざまな勤務形態があり、労働時間が不規則になることもあります。そのため、仕事とプライベートのオンとオフがつけづらく、心身の回復時間が十分設けられないのも実情です。
心身の健康を損ねればケアの質や安全にも関わってくるため、終業後は『心理的ディタッチメント(仕事から心理的に距離を置くこと)』を意識的に設けることが大切です。
そのためには、終業時に明日のタスクをメモして仕事から一旦離れるなどのルーティーンを設けることや、趣味や運動など仕事とは関係のない時間を設け、回復活動を意識することも有効です」
「専門職」である前に「労働者」の意識
佐々木さん
「専門職以上に、自分も労働者という意識を持つことが大切です。医療・福祉の仕事は患者や利用者の命や生活に関わるため、使命感や自己犠牲により頑張りすぎてしまう人もいます。
心身の健康を確保し適切な休息を取ることは、労働者としての権利であると同時に、患者や利用者の安全を守るためことにもつながります」
個人の意識変容と同時に、管理・教育側ができることとして、次のように話します。
佐々木さん
「働き方改革の進展により、医療・福祉の現場でも定量的な労働時間は改善しつつあります。管理側としては、平均的な労働時間を見て安心するのではなく、一部の人に負担が偏っていないかの配慮も必要です。
また、メンタルに不調をきたしている職員の早期発見には、産業保健スタッフの充実とアクセスしやすい環境を整えることが大切です。同時に重要だと考えているのが、看護や福祉の専門学校などの教育機関において、学生のうちから睡眠や休息、産業保健の重要性を伝えていくことです。
そして何より、持続可能な組織として存続していくためにも、医療・福祉従事者を使い捨てにしないということに尽きると思います」

