◆コワモテの男が放った恐怖の一言
高野亜美さん(仮名・20代)は、社用車で取引先へ向かっていた。国道を法定速度で走っていると、後ろから黒いワンボックスカーが猛スピードで接近してきたという。
「ミラーに大きな車体がどんどん迫ってきて、本当に怖かったです」
相手は車間を詰めたままパッシングを繰り返し、道幅が狭いために譲ることもできなかった。苛立ったように蛇行運転をし始め、車体が揺れるたびに“命の危険”を感じたそうだ。
「生きた心地がしませんでした。どこでどうすれば逃げられるのか、必死に考えていました」
やがて信号が赤に変わり停車すると、ワンボックスカーが横に並んだ。窓を開けると、コワモテの男性が顔を出し、怒鳴り声を浴びせてきたようだ。
「トロトロ走ってんじゃねぇぞ!」
信号が青に変わると相手は猛スピードで走り去ったが、高野さんはとっさにスマートフォンを構え、“ワンボックスカーの後ろ姿”を撮影した。
そこには“会社名”と“ナンバープレート”がはっきりと映っていた。
◆判明した驚きの事実「相手は取引先の車」
会社に戻った高野さんは、上司に写真を見せて状況を説明。上司は“それ”を見るなり、表情を曇らせた。
「この社名……うちの取引先の会社だ」
翌日、取引先の営業部長と相手が謝罪に訪れた。菓子折りを差し出し、相手は深々と頭を下げたのだとか。営業部長からも厳しい叱責を受け、その場の空気は凍りついたという。
「そのとき相手は、『まさか取引先の車だとは思わなかった』と言ったんです」
その言葉に高野さんは背筋が冷たくなった。相手の本性が露わになったからだ……。後日、営業職から外され、処分を受けたことを知った。
「会社の名前を背負って車を運転する意味を、ようやく思い知ったのだと思います」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

