
親の病気やケガをきっかけに義理の親と同居を始めた結果、それが深刻な「嫁姑トラブル」へと発展し、夫婦の危機を招くケースは後を絶ちません。39歳パート勤務の女性の事例から、情に流されて介護を引き受けないための「正しい線引き」を解説します。
夫のことをあれほど愛していたのに…
15年前、奈緒さん(仮名/39歳)は、取引先だった5歳年上の俊介さん(仮名)にひとめぼれ。粘り強いアプローチの末交際を叶え、5年の交際ののちに結婚しました。
多忙な夫を思いやり、結婚後はパート勤務。39歳の現在は、扶養内パートで月収は8万円ほどです。営業マンである夫は月収51万円。不妊治療の末子どもは諦め、夫婦2人で慎ましく暮らしてきました。
しかし、そんな幸せな暮らしは、突然終止符を打ちました。俊介さんの実家に1人で暮らす義母のみどりさん(仮名/71歳)が転倒し、足を骨折したというのです。
「母さん、他人が家に入るのは嫌だってヘルパーを断っちゃったんだ。退院後のリハビリ期間だけでいいから、うちで少し面倒看てやってくれないか」
短大出身の奈緒さんを「子どもも産めないし、パートの稼ぎじゃ俊介の足手まといね」と見下し、「女なのにそんなこともできないの」と折にいってお小言をいう義母のことを奈緒さんは快く思っていませんでした。しかし、俊介さんは「母さんが心配だから」と、長い時間をかけて妻を説得。みどりさんは俊介さんが小さいころに離婚し、以降女手一つで子育てをしており、俊介さん以外頼れる親族もいません。気の毒に思った奈緒さんが折れ、足が治るまでの数ヵ月間、義母を迎えることになりました。
しかし、同居が始まると、義母の嫁いびりと「かまってちゃん」がエスカレート。夫の前では「足が痛い、手が上がらない」と大げさに騒ぎ立て、奈緒さんに着替えを手伝わせ、体を拭かせます。しかし、夫が仕事に出かけた昼間は、スタスタと歩いて勝手に冷蔵庫を開けているのです。それなのに、食卓ではわざと食事をこぼし、夫の見ていないところで「ほら、さっさと片づけなさいよ」と命令口調になります。
「奈緒は優しいね」「本当に助かるよ」夫は感謝の言葉を口にします。しかし、夫は義母の陰湿な嫌がらせや仮病にはまったく気づかず、「不自由な母の世話をしてくれる良妻」と信じ込んでいます。夫に悪気がないからこそ、妻は「私が我慢すれば波風は立たない」と責任感から、SOSを出す権利を自ら手放してしまいました。
自分を傷つける義母の食事を作り、理不尽な命令に従う毎日。「当初は少し面倒を看るだけだったはずでは?」と思っていた疑念も、なしくずし的に続く日々の疲労にぼやけていきました。あんなにかっこよく見えた夫もすでにお腹のでたおっさん。夫と義母は顔が似ているので、夫の顔まで憎たらしくなってきます。それでも愛があるからこそ、情だけが自分を地獄に繋ぎ止めているのです。
「結婚なんてするもんじゃなかった……」奈緒さんは心のなかで泣き続けています。
妻のタダ働きに依存した、いびつな家計の姿
夫には安定した収入があり、義母自身にも年金やこれまでの貯蓄があります。また、夫婦には子どもがおらず、教育費等にかかる支出がないため、金銭的には同世代よりも余裕があるはずです。
しかし俊介さんは、「他人が家に入るのは嫌だ」という母親のわがままをあっさり受け入れ、妻の情を「無料の介護リソース」として搾取しています。親を本当に大切にしたいのであれば、妻の自己犠牲に依存するのではなく、きちんとお金を使ってデイサービスや訪問介護といった「プロの外注費」に充てるのが、本来の正しいリスクヘッジです。
「私が我慢すればお金もかからないし、夫も喜ぶから」という自己犠牲は、長期的に見れば悪手。妻が心身を壊せば莫大な医療費がかかり、最悪の場合は「熟年離婚」へと発展し、財産分与や慰謝料、妻の将来の労働力喪失といった取り返しのつかない経済的ダメージを世帯にもたらします。
現状を打破するためには、「足が治るまでの数ヵ月間だけ」という当初の約束を盾に取り、同居の期限を夫に改めて突きつけることが不可欠です。そのうえで、義母の資産と介護保険の枠を洗い出し、ケアマネジャーなどの第三者を交えて「義母の本当の身体状態(実は動けること)」を客観的に評価してもらい、「うちの家計から毎月いくらまでなら外部の介護サービスに課金できるか」という予算会議を行うこと。そのドライな現実へと夫の目を強制的に向けさせることが、自分自身の心と、夫婦の将来を守る唯一の防衛策です。
