
数々のドラマや映画、舞台で、自然体でありながら芯のある女性像を演じ続けてきた俳優・小林聡美さん。そんな小林さんが、まもなく開幕する舞台『岸辺のアルバム』に挑みます。1977年に放送され、今なお語り継がれる名作ドラマを舞台化した本作で演じるのは、八千草薫さんが務めた主人公・田島則子。平凡な中流家庭のなかで揺れ動くひとりの女性をどう立ち上げるのか――。話を伺うなかで、大人の女性の生き方や家族のあり方が改めて浮かび上がってきました。
名作が“いまの私たち”に刺さる

1977年に放送された山田太一の名作ドラマ『岸辺のアルバム』。一見平和で平凡に見える中流家庭が、静かにほころび、やがて崩壊と再生へ向かっていく――テレビ史に残る作品が、2026年4月より東京芸術劇場シアターイースト、5月より松下IMPホールにて、舞台で蘇ります。
小林聡美さんが演じるのは、田島家の母・田島則子。ドラマ版で当時40代だった八千草薫さんが担った役を、「びっくりしたまま」引き受けたと言います。
「オファーをいただいたとき、え、いいの?って思いました。40代の奥さんの役をいまの私がやるわけですから」
1977年当時、小林さんは12歳。リアルタイムでは観ていませんでしたが、大人なってから作品に触れる機会があったそう。主人公・則子については、「自分が見てきた時代のお母さん」という印象を抱いたと話します。当時は「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」という価値観が今より強かった時代。そんななかで生き方に揺れる則子には、今だからこその別の意味も見えてきます。
「私自身は女性がどんどん自由になっていく時代の変遷を見てきたからこそ、則子には懐かしさがあります。でも今の時代でも、人間として、女性として抱えている問題には変わらないところがある。そこが人間のおかしみでもあるなと思います」
昔と今をこの作品の中で行き来することで、「自分らしく生きるとは何か」を、観客も改めて考えることになるのかもしれません。
大人になってわかった「苦味」

出演が決まって改めてドラマを見直すと、初めて見たときと印象は大きく変わったと小林さん。
「大人の事情とか、子どもの事情とか、生きることの大変さとか。みんなが抱えている苦味が、すごくわかる気がしました」。
ドラマでは微細な心情が表情やカットによって伝わりますが、今回は舞台という空間。全15話のドラマを2時間強に凝縮する今回の作品では、同じように再現するのではなく、舞台だからこそできる“開いた表現”を目指しています。
「読み合わせをすることで、ト書きの部分がすごく浮き彫りになって。読んでいるときよりも、“あ、こういう舞台になるんだ”っていう実感が湧きました。舞台っていう空間を逆手に取って、みんなをびっくりさせる方向で攻める感じです。演劇ならではの『岸辺のアルバム』になると思います」
山田太一作品が突きつけてくるもの
山田太一作品の魅力といえば、日常の裏側に潜む痛みを容赦なく突きつけてくるセリフです。
「“どうしよう”っていうところまで問い詰められるセリフに、しびれますよね。心の裏側を問うような、“本当はどう思っているのか”と突きつけられる感じがある。観ている側も考えさせられるんです」。
そして、時代が変わってもなお共感できるところに、この作品の強さがあります。
一方で、木野花さんの演出によって、シリアスな物語のなかに“おかしみ”が立ち上がる予感もあると小林さん。
「木野花さんのすごいところは、字面だけだとシリアスになりがちなところに、おかしみを見つけるところなんですよ。思えば、以前ご一緒した舞台『阿修羅のごとく』(2022年に公演された、向田邦子脚本のドラマの舞台化作品)でもそうでした。今回も結構笑える場面があるかもしれないと思っています」

