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突然の「無予告調査」でパニックに…税務署が会社と社長宅へ。“誤解”で始まった無予告調査のてん末【元マルサの税理士が解説】

突然の「無予告調査」でパニックに…税務署が会社と社長宅へ。“誤解”で始まった無予告調査のてん末【元マルサの税理士が解説】

ある朝、突然の電話。「先生、税務署が来ています」――。お盆前の慌ただしい時期に始まった無予告調査は、社長宅や関係会社まで巻き込む大がかりなものでした。しかし、狙いは見当違いで、結果として申告内容は是認され、調査官が謝罪する事態となりました。調査力の低下が叫ばれる今、企業が直面するのは“精度を欠いた税務調査”のリスクです。9月の最盛期を迎えるにあたり、突然の訪問にどう備えるか、顧問税理士との連携が改めて問われています。

顧問先から突然の無予告調査の連絡

専務「先生。朝から税務署が来ています。関係会社にも、社長の自宅にも調査が入っているようです」

筆者(税理士)「リョウチョウ(国税局資料調査課)だな。この時期(8月の第2週)に一斉調査なら、何かの資料があるはずだ。心当たりはないの?」

専務「まったくありません。申告内容は確認しています。交際費の細かいところをつつかれるかもしれませんが、悪いことは絶対にしていません」

令和5年8月8日の朝、筆者の携帯電話が鳴った。来週からお盆休みで休み明けを含め、3週間分の仕事の段取りをしなければならない超多忙な時期の無予告調査だ。筆者の経験からしてこの時期の調査は、人事異動後の一発目でリョウチョウも気合が入っている。

筆者「おかしいな。この時期の着手は確かな証拠を持って調査に入っているはずだ。本当に心当たりはないの?」

専務「ありません」

来訪者は所轄税務署の法人4部門の調査官2名。関係会社と社長の自宅も含め、相当数での一斉調査を実施している。7月に統括官がリョウチョウから着任していることからトクチョウ部門だろう。

筆者「専務に心当たりがないなら大丈夫だ。これから統括官に電話をかけて調査に協力すると伝えるよ。僕は立ち合いができないけど本当に大丈夫?」

専務「大丈夫です」

会社は売上規模が約5億円の建設業。申告内容には目を通しているが、筆者も専務を信頼していて大丈夫との確信があり、担当統括官に全面協力の約束をした。その後、調査官による会社の調査が行われ、会社全体の調査とともに、特にA部長とB社員の机をしつこく確認していたとの報告が専務から入った。

ターゲットが判明。狙いはB社員

リョウチョウの狙いがB社員であることが、専務の報告から明らかになった。そこで、面識があったB社員に電話で聞き取り調査を行った。

筆者「心当たりがあるだろう?」

B社員「たぶん友人に口座を貸したことが原因だと思います」

筆者「なぜそう思うの?」

B社員「10年前に友人に自分名義の銀行口座を貸しました。そいつとは5年くらい連絡を取っていなかったのですが、今朝、急に携帯電話の着信がありました」

筆者「友人は何をしているの?」

B社員「内装業です」

筆者「A部長もいろいろ聞かれたようだけど、口座に自社の外注先からキックバックさせたカネが入っていることはないよね?」

B社員「絶対にありません。口座もキャッシュカードも渡してしまっているので、どんなカネが入っているのかも知りません。A部長が調査官から聞かれたのは、私の机にA部長から個人的に借りたカネの借用書があったので、その件をしつこく聞かれました」

筆者「うそはないよね。今聞いた話を税務署に伝えるよ。僕をだましても事実は必ず明らかになるけど、本当に大丈夫?」

B社員「先生にうそはつきません」

その晩、B社員に内装業者から連絡があり、内装業者の売上先の一斉調査だったことが判明した。調査の概要は図のとおりだと想定しているが、調査を受ける側に全体像が伝わってくることはない。

リョウチョウの無予告調査(想定図)

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