◆思い出の庭が、犬のフンだらけに
数ヶ月後、鈴木さんが実家の近くを通りかかると、家の数メートル手前から強烈な異臭が漂ってきた。「なんだこのニオイは……と思いながら庭を覗き込んで、言葉を失いました」
そこには、かつての美しい庭の面影はなかった。父と植えた柿の木の周りも、母が手入れしていた花壇の跡も、一面が犬のフンで埋め尽くされていたのだ。
「踏み場もないくらい、そこら中に放置されていました。数日分ではなく、何週間も放置された量でした。すぐに清掃をお願いしましたが、入居者からは『Nature(自然)だから問題ない』といった反応が返ってきたそうです。担当者によれば、屋外の排泄物はそのままにする習慣がある地域もあるようで。文化の違いと言われればそれまでですが、ここは日本の住宅街ですからね」
異臭は近隣にまで広がり、苦情が殺到した。地元の友人からも「お前の実家、すごいことになってるぞ」「あの辺を通る時は息を止めるよ」と連絡が来るようになった。
「地元に帰るたびに『あのフン屋敷の鈴木さん』とネタにされるようになりました。笑い話にしてくれるだけマシですが、情けなくて。思い出の実家が地域の汚点として有名になってしまった現実に、深く傷つきました」
◆契約書の大切さを再認識
その後、鈴木さんは弁護士に相談し、契約更新のタイミングで細則や衛生環境の保持を盛り込んだ新契約への変更を求めた。改善が見られない場合は退去を求める旨も通知したという。「外国人入居者とのトラブルで大切なのは、文化の違いを責めることではなく、契約書でルールを明確にすることだと痛感しました」
「きちんとした人たちだから大丈夫だろう」という希望的観測が招いた今回のトラブル。鈴木さんは高い勉強代を払うことになった。
「大切な実家を貸すなら、もっと慎重に条件を詰めるべきでした。あの庭が元の姿に戻るには、土の入れ替えから始めないといけないでしょうね」
鈴木さんの悩みの種は、まだしばらく消えそうにない。
<取材・文/maki>
【maki】
ライター・エッセイストとして活動中。趣味は人間観察と読書。取材からエッセイ、コラムまで幅広く執筆している

