◆児相への相談と施設の記憶
家庭環境に不安を抱えている生徒がいる――その噂はすぐに保護者たちの知るところとなった。結局、保護者を介した友人からの紹介で、ゆまさんは児童相談所に相談に行くことになった。「当時はわからなかったのですが、面談の対応をしてくれたのは社会福祉士の方だと思います。家庭の状況などを詳しく聞かせてほしいということで、丁寧にヒヤリングをしてくれました。その後、家庭にも来てくれて、母と面談をしていたと思います」
当然、母親は烈火のごとく怒った。
「面談が終わってスタッフさんが帰宅したあと、『なぜチクったんだ』と言って殴られました。母からすれば、私は裏切り者だったのでしょう。その後も数回、スタッフさんが来てくれて、話し合いをしていたように記憶していますが、いわゆる“改善の余地なし”ということで介入する事態になりました」
高校生だったゆまさんは、高校2年生のはじめから卒業目前までを児童自立支援施設で過ごした。妹たちは年齢が離れていたため、別の施設に引き取られたという。薬物などの非行で入所している人や、ゆまさん同様に親との生活に何かしらの問題があってきている人が多かったと振り返る。同時に、「あのころ、まず『3食きちんと食べられるんだ』と安心したのをなぜか今でも思い出しますね」と笑った。
◆婚約者の裏切りと中絶
高卒後に実家からは離れ、看護の専門学校を経てゆまさんは看護師資格を取得。現在も、病棟勤務をしている。不安定な家庭で育ったからか、「どんな家庭をみても、自分よりマシに思えてしまう」と顔を曇らせる。それが悲劇を招いたこともある。「26〜28歳のときに交際していて、婚約もした彼氏の話です。名のしれた企業に勤めており、ご両親にご挨拶をした際も非常ににこやかで『嫁姑問題も少なそうな、良い家庭だな』と感じました。ところが、入籍予定日の数日前になり、いきなり彼から『実は同時進行で交際していた女性がいて、妊娠したらしいから、その人と結婚したい』と告げられたんです。突然のことで、頭が真っ白になりました」
そのさらに数日後、ゆまさんの妊娠が発覚する。婚約者との子どもだ。
「彼にはそのことを伝えたのですが、『俺は(同時進行で交際していた女性と)結婚するから、産んでもらうのは自由だけれども、結婚はできない』と言われました」
本来であれば結婚と妊娠の喜びが二重になっただろう。だがゆまさんは失意のなかで中絶を選択せざるを得なかった。

