精神疾患の「長期化」が家計を直撃する理由
身体の病気やケガであれば、入院期間やリハビリの目安がある程度予測しやすいものです。しかし、精神疾患の最大の特徴は「出口の見えにくさ」にあります。
厚生労働省の「患者調査」(令和5年)によると、一般的な病気の平均在院日数が30日前後であるのに対し、精神および行動の障害による平均在院日数は290日(約10ヵ月)を超えています。近年は早期退院と通院治療への移行が進んでいるとはいえ、ほかの疾患に比べて療養が長期化する傾向は依然として顕著です。
さらに、子育て世代にとって深刻なのが「復職のハードル」でしょう。退院したからといって、すぐに以前と同じようにフルタイムで働けるとは限りません。医療機関などの「リワーク(復職支援)」プログラムで生活リズムを整えたり、職場復帰後も短時間勤務や残業制限などをしたりと、段階的に働き方を戻していくケースが一般的です。その間、ボーナスの減額や昇給の停滞が続くことで、生涯年収ベースでは数百万円単位の差が生じるケースも少なくありません。
そして、もう一つ見逃せない事実があります。前述のとおり、傷病手当金は最長でも1年6ヵ月で支給が終了するという点です。
つまり、療養が長期化した場合、ある日突然「夫の収入がゼロになる」というリスクが潜んでいます。住宅ローンや教育費など、固定費の大きい家庭ほど、その影響は深刻になります。傷病手当金は確かに重要なセーフティーネットですが、これまでどおりの生活水準を維持するには、決して十分とはいえないのが現実なのです。
病気やケガは、誰にでも突然訪れる可能性があります。だからこそ、万一の収入減に備えた貯蓄や家計の余裕を、平時のうちから意識しておくことが重要です。制度があるから安心ではなく、制度だけでは足りないかもしれない可能性を知っておきましょう。
制度・保険による「外部の備え」
制度だけでは足りないもしものときへの備えとして、子育て世代が取るべきアクションは3つあります。それは、支出を抑え、入るお金を増やす仕組み作りです。
1.公的制度のフル活用
精神疾患の治療が長引く場合、まず検討したいのが「自立支援医療(精神通院医療)」です。通常、医療費の窓口負担は3割ですが、この制度を利用すると精神科の通院や投薬にかかる費用の自己負担が原則1割に軽減されます。
さらに、世帯所得に応じて月額の上限額も設定されているため、継続的な通院が必要な場合でも医療費の負担を大きく抑えることが可能です。また、症状の程度によっては「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる場合も。手帳を持つことで所得税・住民税の控除や各種料金の割引などの支援を受けられることがあります。
また、高額な医療費がかかった際には、負担を軽減できる「高額療養費制度」も活用できます。これらの制度を組み合わせることで、収入減と医療費増という二重の負担をある程度和らげることができるでしょう。
ただし、これらの制度はいずれも「申請主義」であるため、自ら手続きを行わない限り利用できません。万一のときに慌てないためにも、制度の概要だけでも平時から知っておくことが大切です。
2.「就業不能保険」による収入の補填
医療保険の多くは「入院」に対して給付金が支払われる仕組みですが、精神疾患は通院を続けながら自宅療養が長引くケースが多いのが特徴です。そのため、入院給付だけでは収入減を補えないことも少なくありません。そこで検討したいのが、働けない状態が続いたときに毎月の収入を補う「就業不能保険」や「所得補償保険」です。
ただし、保険商品によっては精神疾患が支払い対象外とされていたり、支払い期間に制限が設けられていたりする場合があります。加入している保険について、「精神疾患が保障対象になっているか」「何日間の免責期間があるか」を一度確認しておくことが大切です。保障内容が不十分と感じる場合は、特約の追加や保険の見直しなども検討するとよいでしょう。
3.住宅ローン「団体信用生命保険」の再確認
「もし働けなくなったらローンが払えない」という不安に対し、意外と見落としがちなのが団信の保障内容です。最近の住宅ローンには、がん・急性心筋梗塞・脳卒中の「3大疾病」に加え、「全疾病保障」が付帯しているものも増えました。
商品によっては、精神疾患による就業不能も保障対象となる場合があります。こうした保障が付いていれば、一定期間働けない状態が続いた際に毎月のローン返済が保険で補填されることも。保障内容は金融機関や商品によって異なるため、自分の住宅ローンにどのような団信が付いているのか一度確認しておくことが大切です。
