◆人類史上類をみない「大規模詐欺工場」を運営

「15部屋しかなく、ほとんどの部屋が200平米以上あり、現在販売に出ている部屋はありません。坪2000万円はくだらない、港区の中でも最上位に位置づけられるマンションです」(近隣の不動産屋)
かつてこのマンションを日本での拠点、そして資産退避先のひとつとして使っていたカンボジア籍の男がいた。陳志(チェン・ジー)。30代にして、特殊詐欺の帝王と呼ばれた大物であり、2026年2月、アメリカ当局の粘り強い捜査の末に摘発され、2兆円以上の財を没収された人物だ。
中国・福建省の漁村で生まれた陳の半生は、波乱万丈そのものだ。高校卒業後、ネットカフェでバイトを始め、出会い系サイトやオンラインゲームの交流サイトを立ち上げるなどしていた陳はインターネットの闇に目を向け、ハッカーに転身。2011年頃には拠点をカンボジアに移し、スキームを洗練させていった。
「中国からカンボジアに渡った陳は、特殊詐欺の部隊を抱え暗躍するようになりました。政官財界に深く食い込んでいき、とりわけフン・セン前首相の庇護を受け、『園区(パーク)』と呼ばれる大型詐欺団地を運営。ロマンス詐欺を筆頭に、世界各国を相手に特殊詐欺を働きました。それは何千人、何万人とかけ子を集めて詐欺に従事させるほど大がかりなもの。英タイムズは彼の資産規模を約600億ドル(約9兆円)と推定し、中南米の麻薬王に比する財力を持っていたとされています。
犯罪収益金を原資に、陳は正業にも進出。プリンスグループの看板を掲げ、不動産、金融、銀行、航空会社、スーパーマーケットの経営など表向きの事業対も抱えながら、世界各地で不動産事業を展開しました。日本にも関連法人が複数あり、詐欺で得た資金の受け皿として不動産を買い漁ったり、投資に使われていたようです。北青山の高級マンションも陳の名義でした」(全国紙記者)

◆日本は犯罪収益を“安全な資産”へ置き換える市場
特殊詐欺界の大物中の大物の逮捕は、世界を震撼させた。もっとも敏感に反応したのがカンボジアだ。「今年1月に陳が逮捕されてから、カンボジア国内では〝詐欺拠点の大規模な摘発と移動〟が始まりました。それまで稼働していた園区のような大型拠点を捨て、小口分散化が進んでいます」
そう語るのは、現地の事情に詳しいカンボジア日本人会会長の小市琢磨氏だ。
「陳志の逮捕によって『いくら賄賂を支払っても逮捕されるときはされる』ことが明らかになったため、すでに蓄財していた幹部連中の中には国外逃亡する者も増えているようです。在住中国人が好んで使うテレグラムのグループには、プライベートジェットや船など〝逃走ルート〟を斡旋する広告も貼り付けられています。彼らはバヌアツやキプロス、マルタで現地パスポートや国籍を取得したうえ、第三国に出ることが多いようで、シンガポールや日本に高飛びする者もいるそうです」

「そもそも、中国出身の特殊詐欺の連中の間で日本は人気の国でした。陳が逮捕される前から長野の白馬を観光で訪れたり、紅葉を見に行く者がいるという話はポツポツ聞いていましたから。荒稼ぎした者はカンボジアから出国して第三国に移住し、自らは一線を引くか、あるいは家族を第三国において、現地から部下をコントロールして詐欺に従事させるスキームが〝上がり〟とされているため、逃亡先に日本を選ぶ者が一定数いてもおかしくはありません」

