◆社交的な性格の社員がタイ出張をきっかけに…

「シノダ(仮名)っていう社員のせいで、その仕事が僕に回ってくるようになったんです」
そう言ってうなだれる太田さん。シノダさんとは、どのような人物だったのか。
「僕より5歳ほど年下の社員でした。IT系って技術者が多いので、どちらかというと大人しい人が多いイメージがありますが、彼は割と明るい“陽キャ”タイプ。人に対して物怖じしない性格で、たまにある飲み会ではムードメーカー的な存在でした。そういう性格もあって、出張要員としても重宝されていましたね」
人見知りの社員が多いなかで、社交的なシノダさんは海外出張にも適任だった。太田さんも一度だけ、シノダさんとともにタイにある委託先企業との打ち合わせに行ったことがあるという。
コロナ禍で社員同士が顔を合わせる機会が減っていた時期だったが、プライベートでも何度かタイを訪れたことのある太田さんにとって、その出張は比較的楽しいものだったという。
「出張先はシラチャという日本人街で、夜遊びといってもカラオケくらいしかないんです。取引先に連れて行ってもらったりもして、まぁ仕事とはいえ普通に楽しかったですね。出張は週末を挟んで、1週間ほどのスケジュールでした。
本当は休みの日に、車で40分くらいのパタヤまで遊びに行きたかったんですが、うちの会社は夜遊びに対して少し厳しくて。委託先の企業自体はシラチャとパタヤの中間あたりにあったんですが、宿泊先は有無を言わさずシラチャに指定されていましたからね(笑)」
太田さんは、シノダさんを食事に誘うことも考えたが、連絡がつかなかったという。結局、休日は近くのビーチを散歩したり、軽く観光をする程度にとどまった。パタヤまで足を延ばすことも頭をよぎったが、タイの夜遊びの物価が以前より上がっていることもあり、なんとなく気が乗らなかった。
◆激務が続くなかでまさかの逮捕劇

プロジェクトは繁忙を極めた。
シノダさんはフルリモートでの勤務という形だったが、しばらくして、太田さんの耳に、こんな噂が入ってきた。
「最近、シノダと連絡がつかないとか、急に休みになったという話を聞くようになったんです。僕も自分のチームで手一杯だったので、最初はあまり気にする余裕もなかったんですが……。突然、上司に呼び出されたんです」
上司から伝えられた内容はこうだった。シノダさんはトラブルにより、しばらく業務を離れる。詳細は言えないが、「シノダが抜けることになったから、チームの案件を引き継いでほしい」というものだった。
「さすがに激務が続いていたので、それは難しい。できれば理由を教えてほしいと上司に懇願したんです。すると上司は少し言いづらそうに、『本人に関する報道が出ている』とだけ教えてくれたんです」
その後、部下の一人がネットで調べたところ、シノダさんが大麻の栽培および販売の疑いで逮捕されたというニュースを見つけたという。
「逮捕の理由は、海外から大麻の種子を輸入して、自宅で栽培・販売していた疑いだったみたいです。関係者の話では、その入手ルートもタイ出張をきっかけに現地で知った可能性があるらしくて。シノダはリモートワークを利用して大麻を育てて、乾燥させたものを販売していたそうなんです。しかも、知人だけじゃなくて、同じチームの外注スタッフにも持ちかけていたことが後から分かって……」

