◆「私はカンゴクに1年いた」
スティルウェル氏自身が経験し感じた日本人の礼儀正しさは、相手に明確なノーを突きつけたり、失礼になることを言わないことだった。だが、スティルウェル氏は、日本人の礼儀正しさにまつわる“忘れられない出来事”があると語る。三沢基地に赴任後、スティルウェル氏は日本側の関係者に初めて自己紹介した。日本語を少し話すと「日本語お上手ですね」と褒められたため、続けて「私は、カンゴクに1年いて、そこから来ました」と言った。すると、日本人は皆、驚いた表情を見せた。その後も同じように自己紹介したが、やはり驚かれたことを鮮明に覚えているという。
スティルウェル氏は、中国を「ちゅう・ごく」と読むのは知っていたため、韓国も「かん・ごく」と読むと勘違いしていた。「韓国に1年いた」と言っていたつもりが、「監獄に1年いた」と聞こえてしまったのだ。
それを親しい日本の友人に指摘されたのは、かなり後のことだった。日本人は間違いを指摘することを失礼だと考える文化を実感したという。しばらくの間、相手は言い間違いかどうか判断できず、スティルウェル氏が「監獄に1年いて、監獄の食事が大好きで、いつか監獄に戻りたい」と話すのをそのまま受け取っていた。アメリカでは銃犯罪が多いこともあり、本当に監獄にいた人物だと思われていたという。
◆時代が変わっても、日本人は礼儀正しい
時代が移り、政権が変われば、交渉のアプローチも変わっていく。マロット氏が経験した「情報収集マシーン」アプローチや「何でも直接会って話す」習慣、かつてスティルウェル氏が強調した「飲みにケーション」のような交渉スタイルも、時代とともに変化しているのかもしれない。
現職の米外交官にも、現在の日本人との交渉について聞いてみた。詳細については語らなかったが、「日本人は、とても礼儀正しい」と返ってきた答えはシンプルだった。
時代が変わっても、「日本人は礼儀正しい」という印象だけは変わっていないようだ。
<取材・文/阿部貴晃(海外書き人クラブ/ワシントンDC在住ライター)>
【阿部貴晃(海外書き人クラブ)】
アメリカ在住のジャーナリスト。日系メディアのワシントン支局で20年以上、国際関係を中心に報道し、ホワイトハウスや米国の政治・社会、国際情勢を取材。2025年4月よりワシントンDCを拠点にフリージャーナリストとして活動。日米関係やワシントンDCから見たアメリカについて執筆している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

