◆まさかのノートパソコンが壊滅的な被害に
決定的な瞬間は、ほんの一瞬でした。女性が身振り手振りを交えて何かを言おうとした際、肘が須藤さんのテーブルに当たったのです。「ガタン、って音がして……次の瞬間、あ、終わったって思いました」
紙コップのホットコーヒーが倒れ、中身がそのままノートパソコンのキーボードに流れ落ちました。須藤さんが反射的に身を引いた直後、さらに悲劇が重なります。
女性がバランスを崩し、それを抑えようとした男性の動きが重なり、今度は女性の上半身がテーブルに激突。外付けハードディスクが接続されたノートパソコンは、勢いよく床に落下しました。
「正直、文句を言う余裕もなかったです。頭が真っ白でした」
須藤さんが真っ先に拾い上げたのは、ノートパソコンではなく外付けハードディスクでした。そこには、これまで担当してきた工場の生産データ、人員配置、改善履歴など、会社の根幹ともいえる情報が詰まっていたのです。
「頼むから……って、心の中で祈ってました」

”このディスクは読めません”。
◆気がつけば怒鳴っていた自分
命よりも大切だと言っても過言ではない、重要なデータが詰め込まれたハードディスクが壊れたことに対して、須藤さんの怒りが一気に込み上げたといいます。「いい加減にしろ!!」
思わず怒鳴った声に、若夫婦は我に返ったような表情を浮かべたといいます。二人は顔を見合わせ、深く頭を下げました。
「本当にすみません」
「申し訳ありませんでした……」
須藤さんも、その場ではそれ以上責め立てることはしませんでした。怒鳴ったことで、多少は気持ちが収まったのも事実です。しかし、問題はそこではありませんでした。
新大阪に到着すると、そのまま梅田にあるハードディスク復旧センターに直行したといいます。しかし、ドライブが物理的に壊れているらしく復旧は不可能だと告げられました。
「今回の件を通じて、いろいろ学びました。ハードディスクはいつでも簡単に壊れる、そして、悲劇は突然やってくる、ということです」
今回の被害をきっかけに、データのバックアップはこまめに行うことを誓った須藤さん。そして、外出先ではドライブでのメモリーを使用せず、SSDに変更するとのことでした。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

