
日本で最も注目を集めるワイン産地、北海道余市町の勢いが止まらない。ワイナリーやブドウ生産者の数は右肩上がりに増え続け、飲食店やバー、ワインショップなどの新規オープンも相次ぐ。さらに、ハイエンドなコンドミニアムやホテルの建設計画も進行中だ。世界を見据えた「YOICHI」の挑戦は続く。
余市は「夜明け前のオレゴン」
ワインで持続可能な町を拓く
人口減少が続く地方にあって、 余市町をいかにサステイナブルに存続させるか―。その解として、ブルゴーニュの小さな村をモデルに、世界中から人が訪れる〝ワイン産地〞として町をブランディングし、未来へつなぐ戦略を進めています」今年1月、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の特別セミナー「Terroir of YOICHI」で、余市町長の齊藤啓輔氏は力強く語った。
北海道は日本ワインの生産量で山梨、長野に次ぐ第3位。その牽引役が余市町だ。ワイン用 ブドウの生産量、栽培面積はいずれも国内最大規模を誇り、15年前にわずか2軒だったワイナリーは、現在では約10倍の20軒に増加した。1960~80年代にピノ・ノワールの産地として脚光を浴びた米国オレゴン州になぞらえ、「夜明け前のオレゴン」とも称されるなど、産地としての注目は急速に高まっている。
齊藤町長が掲げる躍進の理由は三つある。
第一は戦略的マーケティング。の海外試飲会にとどまらず、北海道の食文化と親和性の高い北欧料理に着目し、ノルディック・キュイジーヌとの相性を通じて余 市ワインの価値を提示した。
第二は品種構成の転換だ。かつて主流だったケルナーやツヴァイゲルトから、ピノ・ノワールとシャルドネへ。農家にインセンティブを設け、植え替えを推進することで、収益性と品質の双方を高めた。
第三は戦略的アライアンス。アカデミー・デュ・ヴァンやリーデル・ジャパンとの包括連携協定に加え、ブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタン村との親善都市協定を締結。現地でのブラインド試飲では余市のピノ・ノワールが高く評価され、国際的な手応えを得ているという。
7人のヴィニュロンが登壇
ワインと料理とジャズのマリアージュイベント

3月、余市のピノ・ノワールの名を世界に知らしめた立役者「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦氏を筆頭に、余市町のワインの造り手7名が一堂に会する一夜限りのイベントが、東京・渋谷区で開催された。会場は恵比寿ガーデンプレイス内の「BLUE NOTE PLACE」。南青山のジャズクラブ「Blue Note Tokyo」を本店に持つ、上質な食と音楽を楽しめるダイニングで、常時70種のナチュラルワインをラインナップする。

「Le Voyage des Vignerons de YOICHI(ヴィニュロン・ド・ヨイチ)」と題した本イベントは、参加者が 造り手と交流しながら希少なワインと料理を楽しめるもの。250枚の前売りチケットは即日完売した。7名の中には、現在ワイナリーを建設中の生産者や、代々ブドウ栽培を手掛けてきた担い手など、〝ワイナリー予備軍〞ながら高い知名度と人気を誇るヴィニュロンも名を連ね、余市のワインと生産者への期待の高さを印象付けた。

当日は、ワインとフードに加え、ニューヨーク仕込みの洗練されたプレイとグルーヴで知られるピアニスト、デイヴィッド・ブライアント氏率いるトリオによるライヴも実施。参加者は、余市のワインと音楽のマリアージュにも酔いしれた。


曽我氏は「音楽にジャズやクラシックなど多様なジャンルがあるように、余市町にも考え方や造り方、味わいの異なる多くのワイナリーがある。このイベントをきっかけに余市のワインに興味を持ち、町を訪れてもらえたらうれしい」と挨拶。さらに「ワインと料理の相性にとどまらず、音楽やアートなど『ワイン×〇〇』の可能性は幅広い。感覚的に響き合うものを見つけるのも大切であり、楽しいこと」と笑顔で語った。
戦略と志をもつ人々が集う余市町は、世界を見据えながら、新たなワインの風景を描き始めている。

