◆大熱狂で幕を閉じた東京世界陸上

観客たちの視線が、競技に注がれていて、ドヨメキやため息に“生の感情”がこもっている。6万人近い観客が一つになっていることがわかる。日本人選手が、グラウンドに登場したときの熱い声援は、テレビで見ているだけなのに、なんだか胸が熱くなった。
女子5000メートルに出場した田中希実は、レース後に「二度とないんじゃないかなというくらい、たくさんの皆さんに見に来ていただいて、本当に一生の一度の経験ができたと思う。今回の世界陸上で、こんなにもたくさんの方々が陸上や陸上に取り組む選手たちを愛してくださってるんだと知って、本当にうれしくて。凄く幸せな時間を過ごせたと思います」のコメントした。
4×100mリレーに出場した1走の小池祐貴は、「鳥肌立ちましたねマジで。え、こんな埋まってんの!? しかもこんな歓声あんの!?と思って。めっちゃ楽しいっす」、2走の柳田大輝は、「しびれましたね。色んな人が本当に地鳴りみたいな歓声って言ってた意味がようやく分かりました」とコメント。
私がテレビ越しで感じた、陸上の大会における未体験の盛り上がりは、選手たちのコメントにも表れていた。
◆織田裕二が築いた「世界陸上人気」
この熱気は、近年の陸上選手の活躍によって、陸上に注目が集まっていることに加えて「世界陸上人気」が生み出していると思う。世界陸上に世間の目を向けさせた、織田裕二の貢献度の大きさを改めて思い知らされた。34年前の長嶋茂雄がカール・ルイスに「ヘイ!カール」と呼びかけた、日本初開催の大会では、カール・ルイス人気で大きな話題になったが、今大会のように出場選手が感激するような、陸上競技に対する関心と理解は観客に浸透していなかった。
織田裕二が世界陸上のキャスターに就任したのは1997年。彼の前のめりな熱い姿勢に引きずり込まれて、陸上競技の楽しみ方、陸上選手への尊敬が世の中に染み込んだように思う。
そして何より、彼の無邪気な振る舞いが、こんなに素直に楽しんでいいのだ、自分の気持ちを表していいのだと、見る者の気持ちを解放したように思える。

