早稲田実業学校高等部の元生徒と50代の母親・Aさんが3月19日、学校法人早稲田実業学校を相手取り、100万円の損害賠償と名誉回復措置を求める訴えを東京地裁に起こした。
3月25日に都内で開かれた会見で、原告代理人の戸舘圭之弁護士が提訴を報告し、Aさん本人も出席して経緯を語った。
弁護士JPニュース編集部が学校法人側にコメントを求めたところ、法人の代理人弁護士が回答。
「当法人は昨日行われたという記者会見の内容を把握しておらず、また現時点において訴状も受領しておりませんので、内容についてコメントできません」とした上で、「今後訴訟手続に移行した場合においても、誠実に対応していく所存です」と回答した。
教員が原告の個人情報含んだメールを誤配信
訴状によると、原告生徒の妹は早稲田実業学校中等部在学中に「教員の不適切な対応」を受け、心身の不調から不登校に陥ったといい、妹の不登校が姉にも“波及”した結果、自身も学校に通えなくなったと訴えている。
早稲田実業学校は早稲田大学の係属校であり、卒業すればほぼ全員が早稲田大学に推薦入学できることで知られる。
原告側の主張では、姉は不登校により、この推薦を受けられないまま2023年3月に卒業した。戸舘弁護士は会見で「この学校始まって以来、前代未聞のことだった」と述べた。
母親は学校に対応の改善を求めていたが、原告側によれば、学校側はこれを「クレーマー扱い」し、十分な対応をとらなかったという。
こうした経緯のさなかに起きたのが、本訴訟における損害賠償請求の直接の根拠となるメール配信だ。訴状によると、2023年3月20日の卒業式当日、早稲田実業学校の教員が、原告生徒と特定できる生徒の進路や家庭状況に関する情報を含んだメールを、誤って高等部3年の全生徒・保護者に一斉配信したとされる。
訴状で原告側が引用しているメール本文には、「C組の某生徒」の卒業をめぐる事情のほか、母親が卒業式に参列する可能性について「来場チェックの際に、誰かを監視役につけることは考えている」「突然何か行動を起こした場合は、学校として対応してくださるそうです」といった記述があったとされる。
戸舘弁護士は会見で「保護者であれば門出を祝う舞台であるにもかかわらず、招かれざる客的な扱いを内部でしていた」と指摘した。
また、訴状によると、卒業式に出席できなかった原告生徒が約1か月後の4月に卒業証書を受け取った際、「カビが生えて腐っていた」校章入りの饅頭とともに手渡されたという。
原告側は上述のメール配信を名誉毀損および人格権侵害にあたると主張。訴状はさらに、(1)いじめ重大事態への対応不備、(2)個人情報の違法開示、(3)調査報告書による評価の固定化、(4)教育機会の剥奪——の4つが時間的・因果的に連続した「構造的違法行為」だと論じている。
なお、原告側の説明では、メール配信後に妹が「裏口入学」と言われるなどいじめを受けたが、出席日数などを理由に、2024年3月31日付で退学処分となった。戸舘弁護士によれば、地位保全を求める仮処分は一審・二審とも認められず、現在は最高裁に係属中だという。
謝罪をめぐる食い違い
原告側と被告側の主張が大きく食い違うのが、謝罪の有無をめぐる経緯だ。
訴状によると、学校側は2023年夏頃、ホームページに「被害者にはお詫びを差し上げております」と掲載した。これに対しAさんは会見で「『いつ、どこで、誰に会って謝罪したのですか』と聞いても返事もくれない」と述べた。
原告側の主張では、2023年12月に学校関係者が「会ってはいない。今後謝りたい」と認めたにもかかわらず、2026年2月の被告代理人によるAさんへの内容証明では「謝罪済みである」と記載されていたという。
「子どもが早稲田に進学できなかったからではない」
戸舘弁護士は会見で「基本的にはお金が目的の訴訟では全くない」と主張。Aさん自身も「学校を訴えるつもりは一切なかった」と繰り返し述べた。
早稲田実業学校には姉妹を含め、子ども5人が通っていることから、Aさんは提訴直前まで学校側と交渉を続けていたといい、弁護士会ADRや都庁への相談など裁判外の解決を3年間模索したが、学校側が対話に応じなかったと主張。
メール配信後、個人情報保護法に基づく訂正や苦情処理の対応を求め続けたが、時効前日まで未了だったと訴え「訴訟を起こしたのは子どもが早稲田大学に進学できなかったからではない。誤りを訂正してくれさえすればよかったのに、嘘をつかれたのが(その理由だ)」と述べた。
また、訴状では、いじめ防止対策推進法の政府提言に関わった鎌田薫前理事長、私学法改正の参考人答弁に立った田中愛治現理事長の経歴に触れ、学校法人としての説明責任が果たされていないと指摘。
加えて、会見でAさんは「私学無償化が進む中で、公金が投入される教育機関において法令遵守や人権意識が担保されていない現状は看過できない」と述べ、本件が一学校の問題にとどまらず私学ガバナンス全体の課題であるとの認識を示した。

