◆「刺青=家庭環境がよくない」と一概には言えない
――BAR店員としてキャリアをスタートさせるのは、19歳ですよね。アングラ好きなお客さんが多かったとか。たまき:身体改造の話題で盛り上がることはありましたね。そのなかにひとり、印象的なお客さんがいました。彼は私の「こんなデザイン彫ったよ」「こんな文学作品読んだよ」というのを静かに嬉しそうに聞いてくれる人でした。その彼から「他人がサスペンションをやっているときに、興奮して自分の手首を切っちゃう人とかもいてさ。そういう危険なアングラもあるから、たまきちゃんはどうか楽しみ方を間違えないで」と言われたんです。
――その人の話がいまも生きている。
たまき:幸運にも、そういう危ない経験をせずにアングラを楽しめています。今、その方がどこで何をしているのかわからないけれど、自分が元気でやれていることはいつか伝えられたらいいなと。
――刺青を入れている人を見ると、「家庭環境がよくなかった」と決め打ちする空気もありますが。
たまき:自分が「可愛い」「かっこいい」と思うものを身体に刻んで、それが自らの美意識のなかに焼き込まれているので、あまり関係ないような気もします。私の家庭に関していえば、両親は愛情をかけてくれたし、姉は“普通”を生きている人なわけですし。感性の違いなのではないかと思いますね。
◆真面目に生きている姿を母に見せたい
――今後のあり方と、特に心配をかけたというお母様への感情を言葉にするとすればどうなりますか。たまき:刺青がある時点で、いわゆる一般社会で働けないことは理解しています。昼職をやっていた時期もありますが、自分には合わないなと感じて辞めました。BARで働く居心地の良さは、私のやや変わった感性を受け入れてくれて、面白がってくれる点でしょうか。4月から、BARの曜日当番のマスターをやらせていただくことになっているので、ぜひこの業界で頑張れたらと思っています。
母は刺青そのものではなく、自立できるかどうかを心配しているのだと思います。私が夜職の世界できちんとお金を稼いで真面目に生きている姿を見せることで、理解はできなくても安心させてあげたいです。
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たまきさんは極めて理性的な女性だ。さらにいえば繊細で、他人の意図や思惑を鋭く見抜いていろんなことを考える。その思考の過程で傷つくことも多いだろう。あらゆる価値観を受け入れてくれる夜の街は、彼女が羽をひろげて寛ぐことのできるオアシス。自らのとまり木を見つけた彼女の笑顔は安堵に満ちていた。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

