◆大統領個人の発言は、見事なまでにブレブレ
こうして並べて見ると、色々と見えてくる。まず、大統領個人の発言は、見事なまでにブレブレである。最初は和戦両様だったのだろうが、イスラエルに引きずられるような形で開戦。体制転覆まで言及するが、空爆だけでそれを望むのは虫が良すぎる。たとえるならば、ローマ教皇を殺害してバチカンを空爆すれば、カトリックを滅ぼせるのか。千年の恨みを覚悟せねばならないが、イランでは執念深く何百年も恨みを忘れず復讐するのが美徳である。
そもそもトランプは分かっていないようだが、イランは普通の国民国家ではない。仮にイランを「国民がいて、その代表の政府がいて、領域を統治する」ような国家だと思っていたら、分析不足もはなはだしい。
イランは、宗教的権威が最高指導者で、宗教勢力が周りを固め、革命防衛隊と称する宗教的信念に凝り固まった武装集団が軍隊と警察を差配し、国民を支配する。そして宗教勢力と革命防衛隊は経済的に結束し、一つのマフィアを形成している。
トランプは軽く「無条件降伏」と口にするが、それにしてもその降伏文書を誰に署名させる気か。まさか、イランを核攻撃で焦土にし、イラン人全員を殺す訳にはいくまい。
ただ、「トランプ大統領個人」と「トランプ政権」を分けて考えるべきだろう。本欄でも再三指摘したが、トランプ個人はともかく、トランプ政権は優秀である。
◆何かイスラエルに弱みでも握られているのか
今次イラン攻撃で、米国とイスラエルの目的は食い違っている。イスラエルは本気で「イラン抹殺」を狙っている。ネタニヤフ首相は汚職まみれで「戦争を止めたら逮捕される男」と称されるが、保身のためにイラン攻撃を続けているとの見方もある。ただ、それであったら救いがある。保身を保障すれば戦は止まるので。むしろ、イラン殺戮が自己目的化していたら……。真意がいずれにしても、イスラエルにとってイランは、40年も自分たちを苦しめてきた仇敵であり、「潰せるときに潰せ」は今のイスラエルの総意だ。トランプ個人は、何かイスラエルに弱みでも握られているのかと勘繰りたくなる。ベネズエラの戦後処理も終わらない時期に、イランで大戦争を始めるなど正気の沙汰と思えない。陰謀論で色々言われるが、信憑性はある。ただ、今の米国はトランプ個人が最終的に全部決める態勢なので頭が痛いが、仕方ない。
国務省は最初から投げやりで「イスラエルがやると言うからついていった」と発信している。国防総省も破壊力での優位はともかく、巨大な国土を持つイランを占領などできないし、政権転覆など虫が良いことを前提に作戦を組み立てている
「トランプ政権」の戦争目的は「イランを殴るだけ殴って、“もういいだろう”とイスラエルを止めること」だとしたら、辻褄が合う。これならアンコントローラブルの大統領が何を言おうが関係ない。
仮説だが、如何?
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売

