◆AI時代初の戦争とフェイクニュースの氾濫
今回の紛争で特徴的なのは、SNS上のフェイクニュースの深刻さだという。「AIがこれだけ進んだ中での初めての戦争かもしれないです。全く関係ない場所にミサイルが撃たれたかのような動画とか、嘘やフェイクだらけ。公式発表以外は信じるなというのが鉄則です」
UAEではフェイクニュースの流布に対し罰金・懲役の罰則が定められている。UAE政府や民間航空局(GCAA)も、公式チャネル以外の情報に惑わされないよう再三呼びかけている。在UAE日本大使館も「複数の情報源から最新情報を入手するなど特別な注意を払う」よう求めている。この点について、取材に応じた日本人は「UAEが昔からSNS上のフェイクニュース規制に厳しかったのは、結果的に正しかったと証明された」と評価する。
◆崩れた「ドバイ安全神話」、残る者の覚悟

実際に数字で見ると、その衝撃は鮮明だ。3月17日時点でUAEに向けて発射された攻撃は計約2000発。UAE国防省は弾道ミサイル300発以上、ドローン1600機以上を迎撃したとしているが、パーム・ジュメイラ、ブルジュ・アル・アラブ、ジュベルアリ港、ドバイ国際空港と、ドバイの「顔」とも言える場所が軒並み被害を受けた。死者8名、負傷者157名(推計)。数字だけを見れば、かつて「世界で最も安全な都市」の一つに数えられたドバイのイメージは大きく毀損されたと言わざるを得ない。
それでも、この街にとどまる理由がある。個人で起業し、サウジアラビアなどのGCC諸国やローカル企業を顧客に持つ人々は「簡単には逃げられない。覚悟が試されている」という。大手企業に守られない立場だからこそ、残り続け、ときにはゴルフや飲み会をしながらも日常を維持しようとする。
「1日に2〜3発ミサイルや迎撃した破片が落ちるのは、もはやイランによる心理戦のようにも感じています。この時点では日常生活に支障はない。だけど10発、20発、50発となれば、当然、生存を意識します。そうなったらさすがに帰らないといけない」
この冷静な線引きが、戦時下のドバイに残る人間の判断基準だ。取材時点では、米国とイランの間で停戦交渉の動きも伝えられているが、双方の主張は食い違い、出口はまだ見えない。各国の思惑が錯綜するなか、ホルムズ海峡の封鎖は続き、湾岸諸国への散発的な攻撃も止んでいない。ドバイの戦時下は、まだまだ終わっていない。
<取材・文・撮影/横山了一>
【取材時期】2026年3月中旬(開戦約3週間後)
【注記】数値データは外務省海外安全ホームページ、UAE国防省発表、Wikipedia(2026 Iranian strikes on the UAE)、CSIS分析等に基づきます。
【横山了一】
フリーランスライター。世界各地を移動しながら、各国の経済・社会情勢を現地目線で取材・寄稿している。現在、中東に滞在中。

