新卒2年目での退職後…
失業後は雇用保険の基本手当を受けながら、返済と並行して就職活動を進めた。「少しでも条件のいい会社に入らなければ」という焦燥感に駆られていたAさんだが、懸命に複数の採用面接を受けた結果、約2ヵ月で新しい職場をみつけることができたという。
再就職先を選ぶ基準となったのは、まさに福利厚生であった。長引く奨学金返済という負担にうんざりしていたAさんは、住宅手当や各種補助が充実している会社に狙いを絞ったのである。こうして福祉関係の会社に入社し、人事部で研修企画や採用業務を担当することになった。再就職手当も受け取ることができ、その全額を迷わず奨学金返済に充てた。
「前職の苦い経験もいまに活かせている」とAさんは語るが、その裏には奨学金が与える生活上の制約が色濃く影を落としている。
福利厚生重視で企業を選ぶ…奨学金返済が若者のキャリアに与える影響
Aさんが高校の説明会で感じたように、奨学金を借りて大学に進学することは、いまや珍しいことではない。実際、大学生の約2人に1人が奨学金を利用しており、学費や物価の上昇、親の収入停滞を背景に、借金をして学ぶことが一般化している。
このような状況のなかで、Aさんが再就職の際に福利厚生を最重視したのは象徴的である。奨学金の返済が生活に大きく影響しているからこそ、返済や生活支援をしてくれる制度が企業選びの重要な基準になっているのだ。
筆者自身、企業の採用担当者と話すなかで「奨学金返還支援制度のある会社から内定をもらったので御社は辞退します」といわれたという声を複数耳にしている。これは若者の就職活動において、奨学金返済が無視できない要素になっている証拠である。
「奨学金返還支援制度」は、日本学生支援機構が2021年に開始し、2025年6月末時点で全国3,721社が導入している。さらに全国の自治体も企業への導入支援を進め、想定以上の応募が集まっていると聞く。若手人材の獲得に悩む企業にとって、本制度は採用競争力を高める切り札になるかもしれない。
奨学金返済に悩む若者にとって重要なのは、単なる経済的支援を行うことだけではないだろう。問題の本質的な解決には、安心して学び、働き、挑戦できる環境を提供することだ。景気の停滞が続く時代に育ち、奨学金という名の借金をして学ぶことを選ばざるを得ない若者たちの負担を少しでも軽減し、若者とともに未来を築いていくための手段・選択肢を増やしていく必要がある。
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者
