◆「常に返事は『YES』か『はい』」ベンチャー企業が掲げる「昭和式社訓」

「今は社会全体で、『ハラスメント』と言われるのを恐れ、若手との接し方がわからない人が増えている。自分自身は社員に愛情を持って接し、きちんと『育てる』という姿勢を見せていきたい」
こう語るのは、コールセンターの運営コンサルティング業務を行うICVコンサルティング(ICV)の代表取締役・今井將一さん(54)だ。
’20年1月創業と社歴は浅いが、「常に即レス即行動」「常に期日は今中」「常に返事は『YES』か『はい』」など、同社が掲げる社訓は何とも昭和的。青森県弘前市内にある同社の執務エリアを覗いてみると、壁にも社訓のポスターが大きく掲げられていた。

「(常に返事は『YES』か『はい』について)個人として『NO』を言いたいときはもちろんあります。でも、一旦『はい』と言って、そこからどう工夫するかを考える。そのイマジネーションが大切だと今は理解するようになりました」
同じく東北営業部で弘前支店長を務める佐野孝行さん(39)は、大手通信会社子会社の元営業職を経て’25年4月に入社した。若手時代は深夜0時に明かりのついたビルに飛び込み営業をかけた経験もあり、「厳しくとも成長できる環境のほうが自分には合っている」と感じている。
◆競争・成長志向を持った学生たちの選択


「僕自身、仕事自体はできるほうでしたが、レスが遅く社内では評価を下げられた。失敗をすべて見える形にすることで、ほかの社員に自分より早く成長してほしいという気持ちを込めました」
厳しい上下関係やルールを隠さない「昭和気風」の企業に、いまどきの若者が入社を志望するのはなぜか。千葉商科大学基盤教育機構准教授の常見陽平さんは言う。
「大学でキャリア教育の責任者を務めてきましたが、一部で『ブラック企業』と呼ばれるような厳しい社風の会社に入社する学生は毎年1~2割くらいいる。特に競争・成長志向を持った学生に顕著です。AIが何でもやってくれる世の中ですが、その反動として『気合』『根性』などプリミティブな感性への回帰が進んでいる面もあると思います」
厳しい会社に入ることはリスクでもあるが、裏を返せば、短期間で営業力やビジネススキルを身につけられる環境でもある。そう考える若者にとっては、むしろ合理的な選択なのかもしれない。
常見陽平(つねみ・ようへい)
北海道札幌市出身。現在、千葉商科大学基盤教育機構准教授。専攻は労働社会学。働き方事情、大学生の就職活動などを中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『日本の就活』(岩波新書)、『50代上等!』(平凡社新書)など著書多数。
<取材・文/松岡瑛理>
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san

