かつて都内の不動産会社に勤務していた武藤拓也さん(仮名・45歳)は、当時の上司だった課長の橘さん(仮名)のことを思い出すと、いまだに辛くなるという。

◆圧倒的な結果を残すが、人間性は…
「橘は社内でも『怪物』的な存在でした。常に営業成績はトップクラス。表彰台の常連で、高額のインセンティブで買った高級外車を乗り回し、いつもブランド物のスーツに身を包んでいました。それだけ仕事ができたということですが、人間性は『最悪』の一言」橘さんは契約が決まるたびに、武藤さんら部下を飲みに連れ出し、いかに自分が優れているかを語って聞かせた。
「それだけならまだ良いんですが、『お前ら、稼げない奴に人権なんてねえんだよ。取れないお前らの分を俺が稼いでやってるんだから、お前らが奢れ』と罵倒された上に奢らされて……。飲み会を欠席すると、さらに激詰めされるので行かないわけにもいかず……王様のように振る舞っていて」
まだ「パワハラ」という言葉が、今ほど一般的ではない20年以上前のことだったが、当時としても明らかに度を越していたという。
「橘は時には顧客を騙すような手法で強引に契約を取ることもあったんですが、そうした顧客からのクレームが入ると、『武藤に任せていたのに、顧客への連絡を怠った』とこちらに責任を押し付け、保身を図ることまでするんです」
◆左遷され、上層部に対して悪態をつきまくる
だが、そんな無敵の立場が揺らぐ出来事が起きた。「春の人事異動で、橘に『カスタマーサポートセンターへ異動』という辞令が出たんです。建物や設備の修繕などを担当する裏方的な部署で、橘にとっては左遷的な人事でした」
営業部のエースだと自認していた橘さんにとって、到底受け入れられる人事ではなかった。
「辞令が出てからというものキレ散らかしていましたね。『上の能無しどもが、成果を出している俺を妬んでクソみたいな辞令を出しやがった』と周囲に毒を吐きまくっていました」
そんな折に、年度末の飲み会が開かれることになった。
「橘はその席でも上司にも聞こえるぐらいの大声で人事異動に対する文句を言っていました。何次会かでバーに行くことになったんですが、その席で、部長と話をしていた橘が、『俺がいなくなったら、この支店の数字がどうなるか分かってんのか! お前らはまともな評価もできねえのかよ!』と食ってかかったんです」

