◆肝いりの企画は「AIが生成したような…」
本人の強い希望もあり、成瀬さんは異例の速さで独り立ちすることになった。最初に担当した案件は、深刻な若手不足に悩む地方の老舗建設会社の採用コンテンツの制作だった。「現場の熱量や、プロジェクトを成功させるために関係会社を含めて一丸となって取り組むチームワークの良さなど、仕事の魅力を丁寧に取材し、求職者の心に響くコンテンツを作る。それがディレクターの腕の見せ所となる仕事でした。ですが、成瀬が提出したのは、AIが生成したような味気ないテンプレ通りの構成案でした」
無論、松本さんは「現場の声をもっと引き出して作らないと誰の心にも刺さらない。構成案を変えた方がいい」と伝えたのだが……。
「成瀬は『そんな感情論、今の時代には通用しませんよ』と鼻で笑い、聞き入れようとはしませんでした。忠告も聞かずに先方に提出してしまい、それが通ってしまったんです。結果は残酷でした。公開されたサイトの滞在時間は極端に短く、応募数はまさかの『ゼロ』。激怒したクライアントの社長から、『うちの良さが1ミリも伝わってこない! プロに頼んだのに、なんだあの薄っぺらい内容は! うちを舐めているのか!』と会社に直接電話が入ってしまったんです」
◆反省の色は見えず。そして……
先方の担当者も経験が浅く、成瀬さんの「これが今の時代の採用コンテンツです」という言葉に乗ってOKを出したものの、結果を聞いた社長の目は誤魔化せなかった。「電話越しに隣にいた自分にも聞こえてくるぐらいの怒号でした。あれほど自信満々だった成瀬の顔から、みるみる血の気が引いていきました。とはいえ、成瀬のことなので『自分のプランはあの会社には早過ぎました』とか強がるんだろう。それでも、少しは現実を知る機会になればと思ったんですが……」
成瀬さんは、松本さんの予想を裏切る行動に出た。
「1週間後、成瀬はあっさりと辞職を申し出てきたんです。『この業界は僕のような先端的な人間の能力は活かせないことが分かりました。もっと自分にふさわしい、ハイレベルな業界で活躍することにします』と言い残して退社していったんです」
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入社から半年も経たずに業界・会社・先輩などあらゆるものを批判して去っていった成瀬さん。伝説の新人としていまだに語り継がれているという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

