
ゾンビ企業とは、すでに実質的には立ち行かなくなっているにもかかわらず、公的支援などによって存続している企業のこと。帝国データバンクの最新調査(2026年1月公表)によれば、ゾンビ企業は約21万社に上ると推計されています。こうした企業を減らしていくことが国の暗黙の前提であり、それは人材・転職市場にとっても決して無関係ではない――そう語るのは、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)の先駆者、東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏。その理由を詳しくご紹介していきます。
「ゾンビ企業を減らせ」…その裏側にあるもの
ゾンビ企業とは、すでに実質的には立ち行かなくなっているにもかかわらず、公的支援などによって存続している企業のことです。こうした企業が減ることは、人材・転職市場にも少なからぬ影響を与えると考えられます。
まずは現在にいたるまでの経緯を見てみましょう。少子高齢化が加速度的に進み、その対策として外国人を積極的に受け入れるべきだという議論がありました。しかし、この問題は想定以上に国民の関心を集め、不安の声も広がりました。移民政策に対する世論は総じて慎重、あるいは否定的だったといえます。
その結果、幹部人材を含めて外国人の優秀な人材を積極的に受け入れる機運は、思うほど高まりませんでした。むしろ逆風が強まったともいえるでしょう。つまり、少子化が進むなかで移民によって労働人口を補う道筋は、現時点では容易ではありません。直近二度の国政選挙を経て、この課題の解決は遠のいた印象があります。
とはいえ、現実として、若年層を中心に労働力は不足しています。また、この先の生産年齢人口減少の加速も、すでに避けられない状況です。
一方で、新型コロナウイルス感染症の収束から数年が経ち、当時、特例の緊急融資を受けた多くの企業で、猶予されていた返済が本格的に始まっています。金融機関からの長期借入金の返済は損益計算書(PL)には直接反映されません。売上や利益には現れませんが、資金繰りには大きな影響を及ぼします。コロナ禍で背負った負債は、いまも企業の重荷となっているのです。
こうした負債や物価高の影響もあり、表面上は業績が回復している企業でも、資金繰りが追いつかず、いわゆる「黒字倒産」に追い込まれるケースが増えています。
では、国は再び特例措置を講じて企業を広く救済するのでしょうか? どうも、これまでとは風向きが変わっているように感じられます。返済開始後に自力で立て直せない企業については、市場からの退出をある程度容認する姿勢がにじんでいるように思われるのです。
「増やす時代」から「選別の時代」へ
ここで本題に戻りましょう。仮に、ゾンビ企業が市場から退出するとどうなるでしょうか。
本来であれば存続が難しかった企業がなくなります。そこで働いていた人たちは、次の職を探さざるを得ません。結果として、人材は比較的安定し、成長を続けている企業へと移っていきます。つまり、企業数を減らすことで、限られた労働力をより生産性の高い企業へ再配置できる――そのような構図が見えてきます。
人口減少が避けられない以上、労働人口も増えません。であれば、企業側の数を調整することで需給バランスを取る。これが、水面下で進みつつある方向性だと考えられるわけです。
昭和の高度成長期は「増やす」時代でした。人口を増やし、GDPを拡大し、企業数も拡大させる。それが国家の基本戦略でした。政策の中心は、いかに予算を配分し、全体を底上げするかという発想にあったのです。
しかし、現在は状況が大きく異なります。少子高齢化が進み、内需は縮小傾向にあります。すべての企業を守り続けることは現実的ではありません。持続可能な企業に経営資源と人材を集中させることで、全体の生産性を高めようとしているように見えます。
賃上げの要請や価格転嫁の推進、金融支援の選別などの動きを見ると、「自立できる企業だけが生き残る」という環境が整いつつあるといえるでしょう。
こうした中で、あなたの所属する会社は、物価上昇や賃金上昇を吸収できるだけの競争力や差別化を備えているでしょうか。価格決定力があり、付加価値を生み出し、健全な財務体質を維持できているでしょうか。
長期的に存続できるポテンシャルを持っているかどうか。この視点は今後ますます重要になります。転職を考える場合も同様です。企業の規模や知名度だけでなく、収益構造の強さを見極めることが、将来を左右することになるでしょう。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長
