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保育園で「しね」と手紙→園児がPTSD発症 “加害児の親”に損害賠償請求できる?【弁護士解説】

保育園で「しね」と手紙→園児がPTSD発症 “加害児の親”に損害賠償請求できる?【弁護士解説】

横浜市の認可保育所で、別の園児から容姿を中傷されたり、「しね」と書かれた手紙を渡されたりしたことが原因で、被害を受けた園児が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したと報じられた。

3月上旬、被害園児の保護者らは記者会見を開催。「園の適切な対応があれば防げた」として、市に対し「いじめ」と認定し、第三者委員会による調査を実施するよう書面で求めたという。書面によれば、被害は2024年夏ごろから始まり、25年3月には「しね、ばか、だいきらい」といった過激な言葉が並ぶ手紙が渡された。

保育所はこの事実を把握しながら保護者に伝えず、事態は家庭でパニックを起こした園児の告白によってようやく明るみに出た。現在も園児は集団生活が困難な状況にあるという。

こうした深刻な被害が生じた際、法的にはどのような解決が可能なのか。弁護士への取材をもとに、法的論点を整理する。

園児本人に責任は問えるのか?

まず検討すべきは、不適切な言動を行った園児本人の不法行為責任だ。しかし、これについては法律上、極めて厳しい壁がある。

民法712条は、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と規定している。いわゆる「責任能力」の問題だ。

数多くの民事事件を手掛ける遠藤知穂弁護士によれば、実務上、この責任能力が認められるのはおおむね12歳前後からとされるケースが多い。自分の行為がどのような結果を招くかを理解する能力が求められるからだ。よって、今回のように相手が保育園児であれば、民事上の責任能力はないと判断される可能性が極めて高い。

つまり、子ども本人を相手取って訴訟を起こすことは現実的ではないということだ。

「監督義務者」としての親の責任

加害者本人に責任能力がない場合、その者を監督する法定の義務を負う者(通常は親)が賠償責任を負うことになる(民法714条)。

ただし、この規定には「免責事項」がある。親が「監督義務を怠らなかったとき」、あるいは「義務を怠らなくても損害が生じたであろうとき」は、責任を免れるというものだ。では、今回のケースで親が「私は十分に教育していた」と主張した場合、免責は認められるのだろうか。

この点について、遠藤弁護士は「免責を得るのは困難」との見解を示す。

「裁判において親側は、『日頃から人の気持ちを考えてお話ししようね、と話していた』などと主張していくことになると予想されます。しかし、結局のところ『しね』という言葉をお友だちに投げかけており、そのような言動を抑止できていない以上、法的に『監督義務を怠らなかった』という評価を得ることは、事実上極めて難しいでしょう」(同前)

民法714条と709条、どちらで請求すべきか

なお、親の責任を追及するには、前述の「民法714条(監督義務者責任)」のほかに、「民法709条(一般不法行為責任)」を用いる方法もある。後者は、親本人の過失(子どもが問題行動を起こすことを予見できたのに、適切な指導を怠ったことなど)を直接問うものだ。

どちらの条文を根拠に請求するのが一般的なのかという問いに対し、遠藤弁護士は「子どもがしたことについて親の責任を問いたいという場合には、民法714条に基づく請求が一般的」だと説明する。

民法709条で親の責任を問うには、被害者側が「親のどの行為が、具体的にどのように過失にあたるのか」を細かく立証しなければならない。

一方、民法714条は「子どもが加害行為をした」という事実があれば、原則として親が責任を負い、親の側が「自分は悪くない」と証明しなければならない仕組み(立証責任の転換)になっているため、被害者側にとっては民法714条を活用する方が法的ハードルが低いからだ。

「PTSD発症」との因果関係をどう証明するか

親の責任が認められたとしても、最後に大きな論点となるのが「因果関係」だ。「園児による中傷や手紙」という行為と、「PTSD発症」という結果の間に、社会通念上「その行為が行われたから、その結果が生じた」というつながり(相当因果関係)があるかどうかが問われる。

PTSDは深刻な精神疾患であり、その発症原因の特定は容易ではない。遠藤弁護士は、因果関係の判断基準について次のように指摘する。

「裁判では、『何があれば因果関係が認められるか』という視点もありますが、『何があれば因果関係が否定されるか』という消去法的な視点も重要視される傾向にあります」

具体的には、相手方の中傷や手紙以外の要因、たとえば「家庭環境の急激な変化(親の離婚や身近な人との死別など)」といった事情が同時期になかったかどうかが精査される。

もし他に大きなストレス源が見つかれば、園でのトラブルだけがPTSDの直接原因とは断定できないと判断され、賠償額が大幅に減額されたり、請求そのものが棄却されたりする可能性がある。

逆に言えば、家庭環境が安定しており、園でのトラブル以外にショックを受けるような出来事が一切見当たらないのであれば、園での被害とPTSD発症との間の因果関係は認められやすくなる。

「子ども同士のケンカ」と片付けるリスク

最後に、本件では保護者が「園の適切な対応があれば防げた」と訴えている点も見過ごせない。保育所側には安全配慮義務があり、園児同士のトラブルを把握した際には、被害の拡大を防ぐ措置を講じる責任がある。

報道によれば、市は別の事実関係も含めて、園の調査を進めているという。手紙の存在を知りながら保護者に報告しなかった園の対応についても、今後検証されることになるだろう。

幼い子ども同士のケンカやいざこざとして片付けられがちな「園児の言動」だが、適切な対応がなされなければ、重大な事態に発展し得ることを本件は示唆している。

配信元: 弁護士JP

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