

夏の緑、冬の銀世界。森と台所を繋ぐ大きな窓に癒やされる。
弁柄塗りの朱がうっすら残る、堂々たる古民家に住む田原奈緒美さん。パートナーの仕事で名古屋やベトナムで暮らしたあと、実家のある飛騨高山の宇津江地区に移住した。
「もともと新しい家よりも古い家が好きで、地元の大工さんが手がけた建物などを見て、こんなところに住みたいと思いました。古材など、あるものを生かすものづくりにとても共感したんです」
玄関を入ってすぐの土間に、主宰する『think』の物販スペース。小上がりを上がると、視線の先に緑を切り取ったような大きな窓がある。
「窓の外は丘で、その先は森。この家の改築をするにあたり、この裏は森だから台所仕事をしながら眺められるようにと、大きな窓を大工さんが提案してくれました」
窓の下には、シンクなど水回りを配置し、その手前には壁の真ん中をくりぬくような形で大きなテーブルが設えられている。
「食卓とキッチンを近くにしたかった。ひとりで料理を作るのは寂しいから、子どもたちが遊んでいる気配を感じ取れたり、料理に参加しやすい台所がいいなと思っていました」




そのほか田原さんが希望したのは、掃除がしやすいように凹凸をなくすことと、プラスチックはなるべく使わないということ。収納については、「物を多く持ちたくない。それは自分が管理できないとわかっているから(笑)。だから、ぱっと見てどこに何があるかすぐわかるようにオープンなつくりにしてもらいました」。
今日は6歳の咲那ちゃんが台所仕事のお手伝い。野菜の重ね蒸しに自家製味噌を入れた味噌汁と栗ご飯が献立だ。シンクの前にベンチをセットして膝立ちになり、小さな手で包丁を握って野菜をトントン切っていく。そのそばで、窓の外を眺めながら田原さんは言う。
「この景色だけでほかに飾りも何もいりません。これからこの緑は紅葉して、冬になったら子どものソリの跡と動物の足跡だけが残る、辺りいちめん真っ白な世界。薪ストーブの炎が反射して映るのもきれいなんです。こんな贅沢なことはないなと思って台所に立っています」





田原奈緒美『think』店主
2024年、自宅の土間スペースに暮らしを豊かにする日用品と量り売りの店『think』をオープン。ゴミや無駄を減らすゼロ・ウェイスト活動も実践中。
photo : Yoichi Nagano text : Yuko Ota
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COOKING LOVERS’ KITCHENS / 料理好きの台所。&Premium No. 145
かつて住まいの裏方であった台所は、いまや家づくりの軸となる、暮らしの中心にある存在になりつつあります。いい台所は、使い勝手のいい台所。使う人が自分自身の勝手にあわせて工夫をするのです。そして自分の勝手というのは、繰り返し料理をする中ではじめて見えてくるものですから、心地のよい台所の持ち主は、すなわち 料理好きであるといえるのではないでしょうか。今号の特集は「料理好きの台所」。手をかけ、使い込んだ台所からは、その人が楽しげに腕を振るう姿や、豊かな食卓や暮らしそのものが透けて見えるようです。すべてのものを取り出しやすくしている人、スッキリ何もない空間で料理に励む人、菜箸や布巾ひとつまでこだわって選ぶ人。工夫とアイデアに溢れ、すみずみにまで目の行き届いた、16組の料理好きのみなさんの台所を拝見します。
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