相続できるはずだった資産3,500万円の末路
Aさんの手元のお金から、相続にかかる費用を捻出することはできませんでした。
「約束を果たしたかったです。でも、自分の生活を崩してまで何百万円も支払うことはできません……」
やむを得ず、Aさんは自宅の売却を諦める決断を下しました。
生前、自分の死後を案じていたBさんの願いも、それに応えようとしたAさんの思いも叶うことはありませんでした。Bさんが大切に住んでいた自宅は、今も持ち主不在の空き家として放置されています。
預貯金や株式もAさんに引き継がれることなく、宙に浮いたまま手つかずとなっています。あのときの口約束だけで安心しきっていたことを、Aさんは今も後悔しています。
「財産相続」をトラブルなく進めるための生前対策
今回のケースのように、法定相続人以外の方に財産を託したい場合、残念ながら口約束だけでは手続きができません。BさんやAさんが、生前のうちに私どものような専門家に相談し、死後の財産処分についてアドバイスを求めていれば、このような悲惨な結末は防ぐことができました。
仮に生前にご相談をいただいていた場合、以下のような対策が考えられました。
遺言作成
自宅と金融資産をAさんに「遺贈」する旨を記載した遺言書の作成です。確実性を高めるためには公正証書遺言が望ましいですが、病状が悪化し死期が迫っているような場合には、証人立ち会いのもとで作成する「危急時遺言」という制度を利用して迅速に対応することも可能でした。
名義変更
生前のうちに自宅をAさんへ贈与し、名義変更を済ませておく方法です。あるいは、自分が死亡したときに贈与の効力が発生する「死因贈与」の契約を書面で結んでおくという手段もありました。
生命保険
生命保険を活用することで、お互いの関係性や保険会社の商品によっては、Aさんを受取人に指定できるケースもあります。健康状態の告知が不要な一時払い生命保険などを活用すれば、死後の手続き費用などをAさんにスムーズに残すことができたでしょう。
おひとり様が増加する現代において、ご自身の財産をどう残し、どう処分するかは大きな課題です。「親しいから大丈夫」と思い込まず、元気なうちに専門家を交えて法的な準備を整えておくことが、ご自身と残される大切な人を守る手段なのです。
新井 健二
新井司法書士事務所
司法書士/ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
