神保町にはなぜ、古書とアウトドア&スポーツが共存するのか
見るからに年季の入った古書店が並ぶ神保町。だが大通りを歩けば、同じ通りにアウトドアショップやスポーツショップが建ち並んでいるのがわかる。
神保町は、江戸時代には古着商を営む店が軒を連ね、明治から昭和初期には東京における衣類産業の中心地だったと言われる。

同地に店を構えるアウトドア・スポーツショップの中で特に歴史が長いのが1912年(大正元年)に大阪から東京へ進出した「ミズノ」で、当時は運動着や野球のグラブなどを販売していた。
神保町は明治時代から多くの大学が居を置く文教の地であり、古書店街となったのもそれが理由のひとつ。そして同じく、大学スポーツをターゲットにした店も多く集まってきたというわけだ。

1955年に創業した「さかいやスポーツ」も、また同様。戦後、品不足が続く中で丈夫な鞄作りから端を発し、第一次登山ブームで盛り上がった学生らによる登山カルチャーを下支えしてきた。
今回はそんなお店を通して、アウトドア&スポーツを入り口に神保町の魅力を探った。
まさに古き良き老舗、「さかいやスポーツ」で触れる神保町的長屋文化

2025年に創業70周年を迎えた登山・アウトドア用品の専門店「さかいやスポーツ」。現在は本店を近代的なビルの1階に構えるが、白山通り沿いにある創業当時の店舗も事務所としてその歴史を紡ぎ続けている。

1955年に創業した同店は、変化の激しい時代をつぶさに見続けてきた。50年代から60年代に起きた第一次登山ブーム、70年代のヘビーデューティーブーム、80年代から90年代のスキーブーム、もちろん昨今のキャンプブームも。勤続20年以上の泉さんが、現在の登山・アウトドア事情を教えてくれた。

「ここ数年は、本格的な高山というより手軽な低山が人気です。キャンプブームを皮切りに登山に興味を持つ人の裾野が広がり、ここ神保町にもさまざまな方が来店されるようになっています」。
登山やキャンプに興味がなくとも、ファッションとしてアウトドアウェアやギアを取り入れる人も多く同店を訪れるようになったとか。

「いまや渋谷や新宿といった繁華街にもアウトドアショップはありますが、神保町はカレーや古書、昭和喫茶など立ち寄れるスポットが多く、それらを含めてお店に足を運んでくださる人も多いですね」。

購入を迷ったときは、一度店を出てカレーやコーヒーを楽しみながら検討し戻ってこられる。また近所の古着屋さんから、ヴィンテージのアウトドアブーツに使えるシューレースの相談を受けるなど、街に一体感があることが、神保町に何度訪れても飽きない理由なのではと語ってくれた。

さかいやスポーツに在籍するスタッフは、もちろん生粋の登山・アウトドア好き。しかし、接客は決してうるさ方ではなく、お客さんがベテランにしろビギナーにしろ、その立場に立った接客を心掛けているという。

「安全に関わることでなければ、楽しみ方は自由です。とにかく、興味が湧いた、好きになったという気持ちを大切にしていただきたいですから。もう50年以上通ってくれている80代のお客さんもいますが、山にはもう登れなくても昔の登山の話や今時のギアの話などを楽しみに来てくれます。常連のお客さんと初めて来たお客さんが情報交換しあう光景だって、日常茶飯事ですよ」。


そうしたお店や客同士の距離の近さが、多くの人が神保町のショップに訪れる理由なのだろう。
時代は変われど、引き継がれる愛着と人情。神保町のアウトドアカルチャーには、古き良き東京の街の姿が、今なお残っているのだ。
