成年後見制度の裏側にある「不自由な現実」
父の資産を動かせない状況に追い込まれた健一さんは、成年後見の申立てを行いました。成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人に代わり、財産管理や契約行為を行う人(後見人)を選任する制度です。父である我妻さんが認知症になってしまった以上、その財産を動かすためには、それしか方法がなかったからです。
申立て後、家庭裁判所が選任したのは、弁護士でした。ここで、第二の問題が発生します。
健一さんが考えていた「できるだけ環境の良い高級老人ホームに入れてあげたい」という願いを、後見人である弁護士は認めませんでした。その理由は、成年後見制度の目的にあります。
後見人の役割は「本人の財産を守ること」であり、過度に高額な支出は原則として認められません。特に、高級老人ホームのように費用が高額な施設については、「本人の生活レベルや必要性と比べて妥当かどうか」が厳しく判断されます。つまり、「資産があるから使っていい」ではなく「本人の利益に照らして必要かどうか」が基準になるのです。
結果として、健一さんの希望は却下され、父は複数の施設を転々とした後、最終的に自宅から車で30分ほどのグループホームへ入居することになりました。
決して、その施設が悪いわけでも不満を抱いているわけでもありません。ですが、「お金はあるのに、思うように使えないなんて」……その現実に、健一さんは強い違和感を覚えたのでした。
「せっかくの資産が使えない」事態を防ぐには
このケースの本質は、「資産の額」ではなく「管理の仕組み」にあります。
認知症などで判断能力が低下すると、本人名義の資産は凍結状態となり、家族であっても自由に使うことができません。成年後見制度はその解決策ではありますが、自由度が低く、柔軟な資産活用が難しいという側面もあります。
こうした事態を防ぐためには、元気なうちからの対策が不可欠です。代表的な方法として、以下のようなものがあります。
●家族信託
あらかじめ家族に財産管理を任せることができる仕組み。認知症になった後も、契約に基づいて柔軟に資産を使うことが可能です。
●任意後見制度
将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ後見人を自分で指定しておく制度。ただし、後見人として収支を記録として残しておかねばならない義務があり、煩雑さがあります。
●生命保険の活用
指定代理請求人を設定することで、介護が必要になった際に迅速な現金確保が可能に。現金化のスピードという点で有効な手段です。
このような手段があるので、それぞれの方法にどんな特徴があり、状況に合わせて活用を検討しましょう。
ただし、これらに共通するのは、「判断能力があるうちにしかできない」という点です。認知症になってからでは、できる対策は大きく制限されてしまいますので、「まだ早い」と考えているうちに対策しておく必要があります。
