
なにかと生きにくいこの時代をサバイヴするヒントを、音無鈴さんに教えてもらった。
◆恋愛を装って迫るマルチ勧誘のリアル

音無:最初はプロテインやサプリメントなど、1万円ぐらいで買えるものは効き目がいいよって勧めてきたんです。そこから化粧品などの金額が高いものを勧められて、最終的に空気清浄機と、お風呂に設置して水を浄化させ、綺麗な水に入れるという、30万円ぐらいする商品まで勧められたんですよ。
――だんだん高価なものを勧めてくるところが巧妙です。
音無:でも、私は19歳だったので、お金もなくて買いませんでした。
――そもそも、どこで知り合ったんですか?
音無:マッチングアプリです。
――何歳ぐらいの方でしたか?
音無:30歳ぐらいで、飲食店でキッチンを担当していた人でした。マルチは副業だったんでしょうね。2、3回デートをして、私の家にも来る仲になり、付き合おうってなったんです。その頃、いろいろとお金を使うことが多くて、バイトをいくつか掛け持ちしていた私に「いいバイトがあるよ」って勧めてきたんですよ。
――かなり早い時期に勧めてくるんですね。
音無:でも、最初は全然匂わせていなくて、恋愛感情を持たせてから「この人のために尽くしたい」みたいな心理を狙ってくるんだと思うんです。最初は「君のために大事な人を紹介する」って、さらっと言うんです。そう言われると「彼にとって大事な人を私に紹介してくれるんだ。どんな人なんだろう?」って興味を抱くじゃないですか。
――そう言われると、誰しも会いたくなります。
音無:そこから「その人はこういうものを売ってお金を稼いでいて、すごくいい人脈を築けるよ」って言われて、マルチとは言わないんですけど「ここに入会すると、商品を売ってお金が稼げるよ」って誘うんです。しかも「君のために言ってるんだよ」って特別感も醸し出すんです。
――若い人は特別感に弱いですからね。
音無:それに私は当時、年頃の大学生だし、肌荒れを気にしていたので、プロテインやサプリメントを勧めてくるんです。プロテインは無添加で1箱8000円ぐらいするし、サプリメントも1袋8000円ぐらいで3種類あるんです。サプリメントを朝昼晩飲んで、プロテインも味噌汁に入れたりすると、肌が綺麗になるよって言われたんです。
――実際に効果はあったんですか?
音無:私はあまり効果を感じなかったんです。最初は気持ち的に健康なものを摂っている意識はあったんですけど、1、2ヶ月しても、肌は別に変わりませんでした(笑)。何らかの健康成分は入っているとパンフレットに書いてあるんですけど、普通に市販のサプリメントで事足りるので、こんなに高いお金を払う必要があるのかなとは思ってました。
――どのぐらいお金を使ったんですか?
音無:最初、プロテインとサプリメントは1ヶ月ずつ買って、その後、化粧水、乳液、ブースターと3種類ぐらい化粧品も買ったんですよ。多分10万円ぐらいは使ったんじゃないかな。それに、私は19歳だったので、まだ会員にはなれなくて、彼の名義で商品を買っていたから、彼にお金が入る仕組みだったんです。
――なるほど。
音無:そのうち「俺の大事な人が出演する実演販売があるので、お前も来てほしい」って言われて行ったら、会員の方が集められていたんです。偏見かもしれないけど、いかにもマルチをやっていそうな人が登壇して「今日は、市販の洗剤と我々が販売している洗剤の洗浄力を比べます」って実演販売をしたんです。
◆違和感だらけの実演販売の現場
――不謹慎かもしれないけど、かなり貴重な場所にいましたね。音無:でも、私は小学生のときに習った「実験をするときは、条件を絶対に一緒にしないとならない」って言葉を覚えていたので、おかしいなって思ったんです。
――どう条件が違ったんですか?
音無:市販の洗剤は水を使わずに使用して、勧めている洗剤は水を使って溶かして使っていたんです。そんな条件で使えば、市販の洗剤が圧倒的に汚れを落とせないじゃないですか。それを堂々とやっているんですけど、会員の人達は「おお!」って驚くんですよ(笑)。
――怖いですね。
音無:それを見た私は疑問に思ったから「条件が一緒じゃないので、結果に差が出るのは当たり前じゃないですか」って言ったんです。
――勇気がありますね。
音無:そうしたら、会場全体が「シーン……」ってなっちゃったんです。そこで彼から外に連れ出されて「俺の大事な人に恥をかかせるんじゃねえ」って言われて、そこで別れました。だから、知識があれば騙されないけど、知らないと騙されちゃうんだなって思いました。
――別れて正解ですよ。空気清浄機や水の浄化装置は買いませんでしたか?
音無:彼の大事な人の家にも連れていかれたこともあり、プロジェクターがある販売専用の部屋があったんです。そこでパンフレットを出されたんですけど、段階があって、まずは金額的にも買いやすいものから買わせて、次に化粧品、次に家具やキッチン用品、最終的に空気清浄機やお風呂の浄化装置を売るんです。そのときに「これは某芸能人も使っていて、うちにも今2台置いてあるんです。これを使うと眠りも変わるし、体の内面や栄養も変わるので、最終的には買ってほしい」ってセールスするんです。でも、その装置は30万円もするので買えないですよね。
――具体的な話をするんですね。
音無:そこで、私は「何が違うんですか?」って聞くタイプなんですよ。そうしたら資料やデータを出してくるんです。それを聞くと会員しか買えないレア感もあって、ちょっと魅力的に思っちゃうんです。今思えば、騙されなくてよかったです。
――密室、特別感、レア感などマルチの常套手段が揃ってますね。出会いはマッチングアプリでしたが、最初どんな文言がマッチングアプリに書いてあるんですか?
音無:「肉体関係ではなくて、誠実な出会いを探しています」みたいな感じでした。会ってみたら、見た目も30歳に見えないぐらい若い感じで、清潔感もあったし、話しやすかったんです。でも、今思えばその話しやすさが、マルチで慣れていたんだなって思います。
――どういう見た目だったんですか?
音無:髪型のセット、肌の質感や香り、洋服のシワもちゃんと綺麗にしていて、しかも飲食店のキッチン担当なので、ご飯も作れるんです。完璧とまではいかないけれど魅力的な人だったんです。
――そういった雰囲気もマルチのためなんでしょうね。口説き方や振る舞いもスマートでしたか?
音無:聞き上手なんですよ。私の悩みも「大変だったね」「どうしたらいいか、一緒に考えてみよう」って、私との共同作業感を出すんです。
――共同作業は女性が弱いですからね。
音無:私はやっていないんですけど、もし私が知人を紹介していたら、最終的にはその人の収入になるじゃないですか。それをうまく「一緒にやろうよ!」って言いくるめてくるんです。あとプロテインやサプリメントの効果を、次に会ったときに「可愛くなったね」「肌がきれいだよ」って褒めてくるんです。
――慣れていますねえ。
音無:19歳なので、どんどん勘違いしていったけど、高価だし、実演販売のこともあったし「あれは嘘だった」って気が付けて良かったです。
――ちなみにあちらの方も上手なんですか?
音無:上手でしたね。私は経験人数が多い方じゃなかったから、それこそ色々とやり方を教えてくれるんですよ。でも、年頃の女性を狙っているので、連絡先には女の子の名前がめちゃめちゃあったんです。
――実演販売のときに「王様は裸だ!」と言えてよかったですね。
音無:危機感を感じましたし、逆に周りはどうして気が付かないんだろうって思いました。もしかしたら、私だけ知らなかったかもしれないけど、一か八か突っ込んだら、めちゃめちゃ濁されたので、これは黒だって確信したんです。
――その後、彼はパッと消えたんですか?
音無:ちょこちょこ連絡はしてきてたんですけど、私がネットで調べて「あなたのやっていることは、こういうことですよね。調べてもいい評判がないし、お金を使ったけど肌も綺麗になってない」って言い、連絡先もすぐにブロックして削除しました。

