未経験・主婦からの起業で自分に課した3か条

――年代の違う人たちと一緒に学んで得たことは?
授業中に、年配の女性は顔がこけやすいので、頬をふっくら魅せるメイクの仕方を質問したことがあります。メイク業界の基本は「スッキリ小顔に見せること」。だからか常識外れの質問に、厳しい先生が激高し、みんなの前で私を厳しく叱責したんです。
私は自分の子どもより若い子たちの前で叱られたことが恥ずかしくて、泣いて教室を飛び出しそうになりました。でも、大人の女性がそんなことをしてはいけない。そう思い直して、自分がなぜ知りたいと思ったのかをもう一度ハッキリと伝えました。
若い生徒たちはハラハラしてそのやりとりを見守っていましたが、授業が終わった後「かっこよかったです」って声をかけられて。ああ、よかったと思いました。
若い子たちは素直で吸収スピードが速い。でも、母として妻としていろんなことを経験して大人になり、いろんな人と臆することなくコミュニケーションをとれるのはこの年代ならでは。自分にはそういう力もあるんだって気づかされました。
――メイクをどうやって仕事にしていったのですか?
スクールでひと通りの勉強はしましたが、実践はまだまだ。
55歳で未経験。弟子入りなども考えてみたけれど、難しそうで(笑)。ならば自分で修行を積むしかないと、おばあちゃんの原宿・巣鴨で、道行くシニア女性に声をかけて100円でメイクをさせてもらいました。あの頃はただただ一生懸命でしたね。
そうした地道な活動が実を結び、地域でボランティア的に大勢の前でメイクの仕方を伝える講座を持たせてもらったり、大学での就活メイクレッスンを手掛けたりと、実績をつくっていきました。
そして1年後にようやく念願の自宅サロンでのメイクレッスンをするようになりました。
――メイクレッスンをやってよかったなと感じる瞬間は?
レッスン中、鏡を見ながら、みなさん必ず自分に見惚れて、「私、まだイケてるじゃん」と自分に惚れ直すんです。
毎回、その表情を見るたびにやりがいを感じますね。
――「あの過去があるから今がある」と思えることは?
40代前半、自信を取り戻したいと専業主婦から起業したこと。
当時、トラベルジュエリー(旅行のときに持ち歩く大切なジュエリーのレプリカ)が日本でもブームになっていて、知り合いの伝手もあり、仕入れ・卸売りを始めました。
とはいえ、未経験の専業主婦。周囲に迷惑をかけないようにと、3つの誓いを立てました。それは子育てを第一優先にすきま時間でやること。知り合いやママ友に売らないこと。軍資金は50万円と決めて、それ以上は使わないこと。
平日、子どもたちを学校に送り出して帰ってくるまでの間に、タウンページを見てブティックに営業の電話をかけ、アポイントがとれたところに営業に行きました。友達には売りやすいかもしれませんが、自力で販路を切り開かないと意味がないと思ったんです。
時間や軍資金には限りがあるけれど、アイデアや熱意、行動力は自分次第。
自分を変えたい、変わりたいと思ったら、行動さえすれば今の状態からは必ず変われる。そう自分を信じられることが、今の活動の底力になっている気がします。
60歳、まさかの離婚でどん底に。立ち直れたのは……

――インスタグラムでの発信を始めたきっかけは?
60歳でまさかの離婚をしたこと。
60歳目前、夫から離婚を切り出され、目の前がまっ暗になりました。自分はもはや必要とされていない、価値がなくなったと思い、離婚するまでは、毎日泣いてボロボロ。
毎朝、夫が出勤するたび、2階のリビングの窓ガラスにおでこを擦り付けながら走り去る車を見ていて、家を処分するときに、ガラスにその跡がたくさん付いていたんです。
それを見た瞬間に、自分自身に「つらかったね」と寄り添えて、新しい人生を生きて行こう!という切り替えができました。
とはいえ、その後の2年間は、コロナ禍もあって、医療機関でのカウンセリングの仕事以外は家に引きこもり、メイクもおしゃれもせず、ジャージとトレーナーで過ごしていました。さすがに2年経ち、「こんなことしてたら、人生あっという間に終わっちゃう!」と危機感を覚えるようになって(笑)
62歳のときに自分を鼓舞するために、自分のメイク動画をインスタグラムでアップするようになったのがきっかけです。
――SNSを始めて変わったことは?
自分も人の役に立てると実感できたこと。
メイク動画を上げると、たくさんの同世代の女性たちが「私もまたメイクがんばってみます」とか「キレイになりたいと思えた」というコメントが届きます。そのたびに、私はまだ誰かの役に立てるんだと思えるんです。
ちょうど明日(※取材時)、眼瞼下垂の手術を受けるんですが、怖くてとっても悩みました。同じように悩んでいる人がいるんじゃないかと思い、術後の経過もシェアしていこうと思っています。
――自信をなくしたり不安を感じたりしたときの特効薬は?
ちょっとした嫌なことなら、忘れるために気を紛らわす術はいろいろありますが、本当につらいときは、時間を味方に、つらいことからできるだけ離れて過ごすしかありません。
運動中は余計なことを考えられないので、水泳なんかも有効だと思います。私の場合、料理が好きで、夢中で何かをカットしているときも同じです。
学生の頃は友達、大人になれば彼氏や夫、やがて子どもが一番でした。子育ての手も離れた今はやっと自分を一番に置けるようになったので、「今は何がしたいの?」「疲れてるなら休もうか」などと自分に問いかけながら寄り添って、甘やかしています。

