いつまでも輝く女性に ranune
「30年間コツコツ積み立てた退職金2,000万円」がゼロに…63歳工場勤めの男性がみた“貼り紙1枚”の悪夢。いまは廃止された“恐ろしい年金制度”

「30年間コツコツ積み立てた退職金2,000万円」がゼロに…63歳工場勤めの男性がみた“貼り紙1枚”の悪夢。いまは廃止された“恐ろしい年金制度”

年金や退職金を巡る制度には、過去に多くの人の生活を脅かしたものが存在しました。本記事では、現在は廃止されたものの、社会に深刻な爪痕を残した3つの旧制度を振り返り、その問題点と未来への教訓を探ります。

1.年金を担保に借金…75歳で「多重債務」に陥った老々介護の男性

郊外に住むAさん(当時75歳)は、認知症を患う妻の介護費用がかさみ、生活が逼迫。なけなしの年金を担保に、福祉医療機構を通じて「年金担保貸付」を申請し、80万円の融資を受けました。

「これで妻の介護もなんとか続けられる……」

一時は安堵したものの、返済は年金から天引きされる形で行われ、手元に残る金額はごくわずか。生活費を補うためにやむを得ず消費者金融にも手を出し、気づけば多重債務に陥っていました。

Aさんは猛暑が続くなか、電気代を気にして冷房もつけられず、汗だくになりながら暑さに耐える日々が続いています。

「年金担保融資制度」(~2022年3月)

つい3年前まで実際に使われていた「年金担保融資制度」。これは、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が、国民年金や厚生年金を実質的な担保として、高齢者向けに小口の資金を融資していた制度です。医療、介護、冠婚葬祭など、まとまった出費が必要になったものの、ほかに借入先のない高齢者が主に利用していました。

この制度の最大の問題は、返済が年金からの天引きで行われること。もともと年金収入だけでは生活が苦しい人が融資を受けるため、返済が始まると、そのなけなしの年金がさらに減額されます。結果、日々の生活費が足りなくなり、不足分を補うために消費者金融などから新たな借金を重ねる「多重債務」に陥るケースが後を絶ちませんでした。

また、「年金を担保にお金が借りられる」という制度の存在が、悪質なリフォーム業者や布団販売業者などに悪用されるケースもありました。高齢者に不必要な高額商品を売りつけ、「支払いは年金担保融資でできますよ」と勧誘し、無理やり契約させる手口の温床となっていたのです。

公的年金は、高齢期の生活を支える「最後の命綱」です。この制度は、その命綱である将来の年金を前借りする仕組みであり、一度利用すると、本来受け取れるはずだった年金額を長期間にわたって下回ることになります。これにより、将来の生活設計が根底から崩れ、貧困から抜け出せなくなる危険性を孕んでいました。

2.コツコツ積み立てた2,000万円の退職金が、一瞬で“ゼロ”に

地方の工場に30年勤めるBさん(当時63歳)。定年まであと2年。退職金2,000万円を受け取り、故郷で静かに暮らすことを夢みていました。

Bさんの勤務先では「適格退職年金制度」が導入されており、毎月の給与から掛金を積み立ててきたBさんは、「月5万円コツコツ積み立ててきたんだ。退職金は2,000万円はくだらないだろう。これで家のリフォームでもして、たまには妻とゆったり旅行でもして、静かな老後を過ごそう」と、2年後にきたる定年を心待ちにしていました。

しかしある日、いつものようにBさんが出社すると、1枚の貼り紙を前に社員たちが大騒ぎしています。人混みをかき分けてその貼り紙を読むと、そこには次のように書かれていました。

突然のお知らせとなり恐縮ですが、本日をもって会社は閉鎖いたします

勤続30年の会社から、突然の倒産宣告。適格退職年金制度には資産保護の仕組みがなく、積み立てていたはずの退職金はゼロになりました。年金もわずかしかなく、その日から生活は一変。妻と旅行どころか、毎日の食費もギリギリまで削る日々が続いています。

「おれはいったい、なんのために働いてきたのか……」

Bさんは、夢も誇りも失い、深い絶望のなかにいます。

適格退職年金制度(通称:テキネン)(1962年~2012年)

「適格退職年金制度」は、かつて多くの企業が退職金制度として導入していた企業年金のひとつです。掛金を非課税で積み立てられる税制上の優遇措置があったため、広く普及しました。

この制度の最大の問題点は、年金資産を保護する仕組みが非常に弱かったことです。万が一会社が倒産した場合、積み立てていた年金資産が保全されず、従業員が退職金をまったく受け取れない、あるいは大幅に減額されるというケースが頻発しました。また、転職した場合に、積み立てた年金資産を次の会社の制度に引き継ぐこと(ポータビリティ)が難しいという側面もありました。

Bさんの事例のように、長年勤め上げた会社が倒産した途端、約束されていたはずの退職金がゼロになるという悲劇が実際に多く起こりました。この資産保護の脆弱性が大きな社会問題となり、より安全な確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC、iDeCo)への移行を促す形で、2012年に制度が完全に廃止されています。

あなたにおすすめ