◆ノルマと営業の現実

だからこそ、本当にその人に適した商品かどうかよりも「契約につながるか」が優先されてしまうのです。
特に仕組預金は金利が通常の定期預金よりも高く、一見するとリスクも低そうに見える商品です。しかも、銀行に入ってくる手数料は非常に高く、多くの銀行員が売りたがる商品なのです。
私は正直なところ、「この方にはリスクが大きすぎるのでは?」と疑問に思う場面もありました。しかし一度そう感じても、「上司からの圧力」「チーム全体の目標」という現実の前では、断る勇気を持つのは難しかったのです。
今思えば、お客様よりも銀行側に立ってしまっていました。
一度、忘れられないケースがありました。高齢のお客様が仕組預金を契約され、数年後に急な入院費用で資金が必要になったのです。
通常の定期預金なら利息が減るだけで解約できますが、仕組預金はそうはいきません。
評価損が発生し、解約すると元本が大きく減ってしまう。私は窓口でその説明をしながら、お客様の顔が曇っていくのを見ました。銀行員として非常に心苦しい瞬間でした。
結局その方は損を覚悟で解約されましたが、「最初からこんな商品だと分かっていたら契約しなかった」と言われたのを今も忘れられません。
◆銀行にとってのおいしい商品
仕組預金は、お客様にとっては複雑で分かりにくい商品ですが、銀行にとっては大きな利益を生む仕組みになっています。デリバティブを組み込むことで、リスクの一部を顧客に押し付けつつ、銀行は手数料や収益を得られる。つまり「銀行に有利に設計された商品」なのです。だからこそ、営業現場では常に重点商品として扱われていました。
しかも2025年現在、日本の金利は上昇局面にあります。金利が高くなるとその分、お客様に販売しやすくなるため、今後多くの銀行が仕組預金に力を入れることが想定されます。
しかし、仕組預金は表面上の金利が少し高いだけのリスクが極めて高い商品です。
もちろん、リスクを100%理解したうえで購入するならば構いませんが、こんなリスクの高い商品に投資をするくらいなら、他の投資をしたほうが良いと私は思います。
<文/渡辺智>
【渡辺智】
某メガバンクに11年勤務。リテール営業やプライベートバンカー業務を経験。その後、外資系保険会社で営業。現在は金融ライターとして独立。FP1級保有。難しい「お金の話」をわかりやすく説明することをモットーにしています。公式SNS(X)は、@watanabesatosi7

