◆いよいよ配属、実務では全員が苦戦

「さすがの加藤も疲労困憊でした。週末になって会うたびにやつれていく。当時は知る由もなかったのですが、彼の配属先は新卒にはやや厳しい。役職から降格した社員を鍛え直したり、出世させるかさせないか微妙なラインにいる社員を試したり。今思えば、人事部としても鳴り物入りで入社した加藤の実力とか本気度をはかろうと、あえて試練を与えていたのかもしれません」
夏を迎える頃には、死に物狂いで結果を示す新入社員もいれば、退職者もチラホラと出始めた。同期の間には、不穏な空気が流れていた。それでもなんとか苦しい時期を乗り越えようと、お互いを励ましあっていたそうだ。
社内で有望視されていた加藤さんだったが、ここのところはすっかり影を潜めていた。次第に浅野さんとの飲み会にも顔を見せなくなったという。
◆街に消えていく同期の男女「あの方向は完全にラブホ街だ!」

「だんだん飲み会の規模も縮小されていき、最終的にはそれぞれが研修で同じグループだった人たちだけでつるむようになっていました。A班、B班、C班みたいな。加藤のいたグループの同期に偶然会ったときに“最近みんなどうしてる?”って聞いたんです。そしたら、知らぬ間にちょっとした“事件”が起きていました(笑)」
それまで真顔だった浅野さんが、少し下品な笑みを浮かべる。事件とは、いったいなんなのか?
なんと、その同期によれば「先日、グループの飲み会で加藤とあゆみ(仮名)が付き合っていると発表した。終電間際、みんなが解散した途端、2人で肩を寄せ合いながら消えていった。あの方向は完全にラブホ街だ!」というのだ。
「あゆみも同期の中では“なんでうちに入社したんだろう?”と思われていたひとり。大学時代はモデルとかファッションショーの仕事をかじっていたらしく、ビジネスマナー研修にピンヒールを履いてきちゃう感じの子で少し浮いていた。業界を間違えちゃったのかなって」
以前から「なんだか2人の関係が怪しい」「距離感が近すぎる」と、そのグループ内では交際を疑われていたそうだが、実際にその姿を目の当たりにして驚いたとか。

