◆日本の「新卒一括採用」は、最後の聖域か?
一見すると、日本はこの変化の影響を受けにくいように見えます。世界でも稀な「新卒一括採用」があり、企業がゼロから人を育てる文化が根付いているからです。しかし、これは「猶予期間」に過ぎないかもしれません。AIで代替できる業務が増えれば増えるほど、株主や経営陣から「なぜ、AIでタダ同然でできる仕事のために、使えない新人を何年も養うのか?」という冷徹な問いが突きつけられることになります。
これまでのように「とりあえず採用して配属し、現場で育つのを待つ」という悠長なモデルは、コストに見合わなくなります。特に日本の年功序列システムでは、最初の数年で「何ができるようになったか」が曖昧になりがちですが、AI時代はその停滞を許してくれません。気づいたときには、「AIに代替不可能な経験」を一切積めないまま、キャリアの入り口で迷子になるリスクがあります。

◆「入口」を自分で作る
では、この過酷な時代に個人はどう動くべきか。ひとつ確かなのは、「会社に入ってから育ててもらう」という依存関係は、すでに終わったということです。これからの時代に必要なのは、「入る前から実務を擬似的に経験していること」です。シアトルの現場で痛感するのは、評価されるのは「経験年数」ではなく「再現性」だということです。
「誰かに与えられる仕事」を待っていては、一生入り口に立てません。自分でブログを書き、AIを駆使してアプリを作り、企業の戦略を勝手に分析して公開する。そうした「勝手に始めた実務」こそが、消えた階段に代わる新しい入り口になります。
AIは仕事を奪っているわけではありません。もっと残酷に、「仕事の始め方」を根こそぎ変えています。これまでは会社に入ることが「スタート」でしたが、これからは「会社に入る前に、すでにレースを始めている人」だけが、次のステージに進めるのかもしれません。
その変化に今すぐ気づき、自ら「一段目」を作り出せるかどうか。AI時代のわたしたちの立ち位置は、そこにかかっていると思います。
【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。X:@fukutamanegi

