「中学受験はやったほうがいいのかもしれない」――そんな軽い気持ちで塾に通い始めたはずが、周囲の熱量や不安に押されるうちに、気づけば引き返せなくなっていた。いま、こうした状況に陥る家庭が後を絶たない。
今年2月に息子の中学受験を終えた会社員・島田敏弘さん(仮名・47歳)も、その一人だ。膨らみ続ける教育費、すれ違う夫婦の価値観、終わりの見えない課金の連鎖。
「このループを、どこかで終わらせたい」と語る島田さんの証言から、一般家庭が“受験の沼”にハマっていく実態に追った。

◆「やらない」選択肢はなかった
――お子さんの中学受験を考え始めたきっかけを教えてください。島田敏弘(以下、島田):妻が中学から大学までGMARCHで、今は年収1000万円超の大手企業に勤めていて。職場の同僚も、子どもを私立に入れている人が多いんです。だから妻にとっては、中学受験は当たり前の感覚でした。
「どこの部署の〇〇さんの子は開成に通っている」とか、「〇〇さんの子は桜蔭らしい」といった話を日常的にしていて、「うちの子たちも頑張らないとね」という空気になっていって……。中学受験をしない選択肢は、最初からなかったと思います。
一方で私は、中学も高校も公立で、一浪はしましたが志望の大学には入れたので、「別に中学受験をしなくてもいいのでは」と考えていました。なので、完全に妻主導で始まって、私は半ば強制的に巻き込まれた感じですね。
――塾にはいつ頃から通われていたのでしょうか。
島田:息子は小3からSAPIX(サピックス)小学部に通っていました。当時、上の子が日能研に通っていたんですが、妻が「成績が上がらないのはおかしい。息子はもっと厳しい環境に入れた方がいい」と言って、サピックスに入れたんです。
ただ、サピックスは教材がプリント中心で、その管理やフォローを親がかなりやらないと回らなくて。仕事と並行で対応するのは相当きつい。妻が根をあげてしまって……。子ども2人とも一緒に、「面倒見がよさそうだから」という理由で早稲田アカデミーに転塾させました。
◆母はスパルタ、父は“なだめ役”

島田:私は主に送迎で、勉強はほぼ妻の担当でした。私は、聞かれたら教えるくらい。妻は息子がうまくできないとすぐキレてしまう感じで大変でした。
――どのようなところが大変だったのでしょうか。
島田:もう、ずっと大変でした。特に6年生になると、週に3回塾の授業があり、土日も模試や講習で全部埋まる。親も休む時間がないんです。その中で、妻は「せめてGMARCHレベルには入ってほしい」という思いがある。でも、息子は偏差値40前後で、塾でも1番下のクラスでヘラヘラしてる……。妻としては、もう耐えられないという感じでした。
計算ミスがきっかけで怒り、息子が泣きながら計算をやっていたこともありました。そのあと、ケアするのは、私の役割。「ママがお前のこと嫌いなわけじゃないからな」となだめたりしていました。
それでも妻からは、「結局、全部私がやってるじゃん。あなたはサポートする気あるの?」と言われることもあって。内心では「そもそも俺、この課金ゲームに参戦してないからな」と思っていました。

