◆鉄道マニアの地方出張
都内の司法書士事務所に勤める稲垣さん(仮名・25歳)は、最近、全国から寄せられる相談対応のため、地方出張に追われる日々を送っているそうです。「代表からはフットワークの軽さを買われていますけど、実は、僕自身が移動の時間を楽しんでいるのを透かされているのかもしれません」
そう苦笑いする稲垣さんは、自他共に認める”鉄道マニア”です。この日の目的地は岡山県倉敷市。
不動産相続の案件で、対面調査と役所回りが必要でした。千葉の自宅から東京駅へ向かった稲垣さんは、愛する「のぞみ号」に乗車。予約したのは、いつもの2列席・窓側です。

上機嫌な稲垣さんでしたが、実は前夜、資料作成で徹夜をしていました。そのため、お腹が満たされ、お茶を飲み干すと猛烈な眠気が襲ってきたといいます。
「名古屋付近までは覚えてるんです。でも、そこからの記憶がプツンと途切れてしまって。完全に夢心地でした」
名古屋駅で乗客が入れ替わり、周囲が埋まっていく気配は感じていたそうですが、深い眠りに落ちた彼がその「異変」に気づくことはありませんでした。
◆目覚めた視界を塞ぐ規格外の輩たち
稲垣さんが目を覚ましたのは新神戸を過ぎたあたりでした。鼻を突く強烈な香水の匂いが意識を強制的に浮上させたのです。「これまでに嗅いだことのない重厚な香りで目が覚めました。時計を見ると、もう岡山到着の10分程前。慌てて荷物をまとめようとして、隣を見て絶句しました」
そこにいたのは、見たこともない巨大なスーツケースに、足を乗せた黒人男性でした。帽子を深く被り、体格はプロレスラーかと思うほど。驚きはそれだけではありません。周囲を見渡すと、彼の席の周りは、マイケル・ジョーダン級の大男たちによって完全に占領されていたのです。
さらに稲垣さんを絶望させたのは、彼らの持ち込んだ荷物の量でした。足元に入り切らないバッグが通路に溢れ出し、全く通路としての機能を失っていたといいます。
「前後左右、みんな強面(こわもて)の集団でした。彼らの巨大なケースが壁のように通路を塞いでいて、どこにも抜け道がない状態だったんです」
稲垣さんは、その異様な光景に一瞬、思考が停止したといいます。

