いつまでも輝く女性に ranune
【ブレイディみかこさんインタビュー〈後編〉】女性同士のつながりが人生を変える! シスターフッドは身近なところから

【ブレイディみかこさんインタビュー〈後編〉】女性同士のつながりが人生を変える! シスターフッドは身近なところから

『SISTER❝FOOT❞EMPATHY(シスター❝フット❞エンパシー)』を上梓したブレイディみかこさんは、渡英して29年。無料託児所でスペシャルニーズな子どもたちの保育士を務めていました。DV被害、貧困、失業、移民、シングルマザーなど、さまざまな葛藤と困難を抱えた母子たちと出会い、向き合った経験から、「地べた」の営みを書いてきました。インタビュー前編では「他者の靴をはく」ように相手の立場に立って理解を深める「エンパシー」についてうかがいました。インタビューの後編では、「シスターフッド」についてうかがいました。「シスターフッド」って何?と、 初めて耳にする読者もいるかもしれません。「女性同士のつながり」を意味するこの言葉は、コミュニケーションの難しさ、もどかしさを感じる大人世代にこそ、じっくり考えて受けとめてほしい概念です。イギリスで暮らして四半世紀になるブレイディさんも、厳しい直面に出くわすことが多く、そのたびに、「シスターフッド」に助けられたそう。「シスターフッドは、人生の新しい扉を開ける」という、ご自身の経験を交えながら語っていただきました。

ブレイディさん近影ⓒShu Tomioka

同じ立場の移民の同僚たちが
そっと手を差し伸べてくれた
シスターフッドに助けられてばかり

―――シスターフッド(女性同士のつながり)の素晴らしさを理解するのに感動的なのが、本書の冒頭で紹介している、アイスランドの「ウィメンズ・ストライキ」について。今から50年前の10月にアイスランドの全女性の90%が参加したという伝説のストライキ。この秋、映画『女性の休日』という邦題で公開が決まり、話題にもなっています。[*1]

ブレイディみかこさん(以下ブレイディ) 私が原稿執筆をするときに通っているカフェの店長が、アイスランド出身の女性で、この日のことを記憶していると聞かせてくれました。考えてもみてください、現在のようにスマートフォンもなければSNSも普及していない時代に、全女性の90%が集結するなんて、もう「地べた」でつながり合った「シスターフッド」そのものです。

―――アイスランドの伝説のストライキのような例は、日本では聞かないですよね。性的な被害を訴える#MeeTo(ミートゥー)運動に影響をうけたフラワーデモ[*2]が話題にはなりましたが、まだ社会を変えるまでには至りません。この本の連載がスタートするときに、『82年生まれ、キム・ジヨン』[*3]を読んだ韓国人女性はみんな怒ったのに、日本人女性は「泣きました」という感想を聞いて、その反応の違いに驚いたそうですが……。

ブレイディ 韓国の女性たちはあの本を読んですごく怒ったんですが、日本語版を読んだ日本女性はなぜか「読んで泣きました」だったとあの本の編集者に聞かされました。なぜ日本人は怒る前に泣いちゃうのか、と。「こんなこと、日本にもあるよね」「私たちつらいよね」「でも、明日から頑張ろう」と、泣いて慰めあい、涙を拭きあうだけでは、結局その泣かなければならない原因は変わりませんよね。そこで「ちょっとふざけんな!」「おかしいじゃないか!」と声を上げてもらうにはどうしたらいいか、編集者さんと話し合ってきました。この本の連載を始めたとき、日本の女性たちが、泣くだけで終わらずに、立ち上がろうみたいな気持ちにさせるようなものにしたいねと、打ち合わせしました。

―――ブレイディさんがイギリスでシスターフッドを感じたのは、どんなときですか?

ブレイディ 保育士として託児所で働いていたときは、私が担当する子どもは問題を抱えた子ばかり。蹴りは入れられるは、髪は引っ張られるわで、危害を加えられることが頻繁にありました。そんなとき、同僚の保育士たちが、私にはわからないようにそっと手を差し伸べてくれたのです。「エンパシー」がある同僚たちの支えが心強かったですね。

―――コロナ禍でもシスターフッドが結束したそうですね。

ブレイディ コロナ禍のイギリスのロックダウンは、日本の比ではないほど厳格なものでした。それだけにひとり暮らしの高齢者や、コロナ感染した人たちは食料を調達することも難しく、たとえコロナに感染してもケアができない厳しい状況でした。そんなとき、私たちが暮らすイギリスの東南部ブライトンでは、ロックダウン初日か2日目に、「コロナにかかったひとり暮らしの人と高齢者を助けるためのお買い物代行などの仕組みを作りませんか? 興味があったら、ここに電話してください」とプリントされたフライヤーが各家庭に投函されました。そこに書かれた携帯電話やメールアドレスに連絡して多くの人たちがボランティアに参加しました。定期的に高齢者に電話して「ビスケットは足りていますか? 何か切れていますか?」と聞いて買い物リストを作って交代でお買い物に行って届けるなどしました。コロナ禍が終わった後、物価が高騰したときは、そのときのネットワークが中心になって、家の前に不用品を置いておき、必要な人が持っていく仕組みにしました。いまはそれが公民館の一室を借りて、フードバンクのようになっています。

*1 1975年10月24日にアイスランドの女性たちが仕事も家事も休んだ。ドキュメンタリー映画は10月25日公開予定

*2 フラワーデモは、花を身につけて性暴力に抗議する社会運動。2019年4月11日に始まって以降、毎月11日に日本各地で実施されている

*3 韓国で130万部以上を記録した、韓国の作家チョ・ナムジュのベストセラー小説。一人の女性キム・ジヨン(韓国における1982年生まれに最も多い名前の困難な人生を通して貧困や差別といったテーマが描かれる

ⓒK.M.S.P./PIXTA

自己肯定感が低く自分を愛せない悩みは、
50代も20、30代も同じ

―――シスターフッドのネットワークを築きたくても、自己評価が低い、自分を愛せない、コミュニティにも入っていけない、と悩んでいる50代読者もいます。

ブレイディ 私は20代、30代の女性たちと定期的にオンラインで悩みを聞く機会がありますが、まったく同じことを悩んでいますよ、彼女たちも。いまの若い世代は、「失敗したくない」という気持ちからか、どこか遊びに行くにしても、前もって動画で体験してから後で追体験しますよね。行ったことのない場所に行くとか、初めての人に会ってみることから、新しい何かが始まるのに。だから、「あんまり下調べしないほうがいいよ」と私はよく伝えます。

―――50代女性はいろいろな体験をしていてきたからこそ「こうなるともうダメかも」と自分でシャッターを下ろしがちですが。

ブレイディ いや、それは20代、30代も同じですよ。いまの若い世代は、実体験はないんだけれど、テクノロジーでなんでも下調べするせいで、精神的には無鉄砲さがなくなっていて、若年寄りみたいになっている気がします。

―――自己評価を高めて、自己肯定感を上げるにはどうしたらいいのでしょうか。

ブレイディ それは小さなことでもいいので、新しい扉を開けること。行ったことのない駅で降りてもいいし、下調べしないで「なんか感じいいな」と直感したカフェに入ってもいいと思う。それがきっかけでシスターフッドのネットワークが築けたり、新しいコミュニティが見つかるかもしれません。シスター❝フット❞をタイトルにしたので、そこは「足元」から探してみるのもいいと思いますね。たとえば、親族のシスターフットとか。大人になったからこそ、従姉妹とつながるのもいいかもしれないです。

―――家庭でもなく、職場でもない、第三の居場所、サードプレイスを作れたらいいのですが……。

ブレイディ 友だちに誘われたら、一回は行ってみるというのはどうでしょう。❝私の世界じゃない❞と尻込みするものに限って、行ってみたら意外にそうじゃないこともあるし。そこから新たな世界が広がるかもしれない。イギリスにはパブという独特の文化があって、まさに正式名称がパブリックハウスだから。日本の人たちは、パブはおじさんがお酒を飲むところとイメージするようですが、女性たちもちゃんと来ています。そこで飲みながら会話をして仲良くなることもありますよ。
日本でもサードプレイスがたくさんできるといいですよね。兆しが見えるのが小さな書店。そこで読書会を開いたり、自分の棚を作ったりと、コミュニティプレイスになりつつあります。サードプレイスが発達している場所は、民主主義が成熟しているらしいんですよ。人々が集まって意見交換したり、情報交換したり、いろいろ話し合える場所があると、そこが基盤になって「何か一緒やりましょう」「小さなことから社会を変えていきましょう」とシスターフッドにつながることもあると思います。

―――ところで、ブレイディさん著の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で中学生だった息子さんは、大学生になられたそうですね。

ブレイディ 今年の夏休みに、大学の友人と一緒に私の実家がある福岡に帰省しました。そのとき、ウーバーのアプリで呼んだ「モハメドさん」というタクシードライバーと、息子の友人が熱心に語り合っていました。ロンドンではタクシードライバーと会話することなんてないのに、日本で話し合えたことを喜んでいました。うちの父は建築業で家を建てるビルダー。そんな父とも、言葉は通じなくても居酒屋で一緒に食事をして盛り上がっていました。息子の友人は父親が官僚で、本人も将来は官僚になる進路にいます。そんな彼が、日本の地方都市で「他者の靴をはく」ようなエンパシーを感じるコミュニケーションができたことは、よい機会になったと思います。

ブレイディみかこさん

ライター、コラムニスト 1996年からイギリス在住。2017年『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で第16回新潮ドキュメント賞受賞。2018年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース/本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品は『私労働小説 ザ・ショット・ジョブ』や『両手にトカレフ』など。近著には『地べたから考える――世界はそこだけじゃないから』。BBC放送の連続TVドラマ『EastEnders(イーストエンダーズ)』の大ファン。

ⓒShu Tomioka

『SISTER❝FOOT❞EMPATHY(シスター❝フット❞ エンパシー)』

著/ブレイディみかこ
¥1,600+税(集英社)

「他者の靴をはく」ように相手の立場に立ち、理解し合う。エンパシー力とシスターフッド力をかけ合わせたら、きっと人生が好転する。そう信じたくなる一冊。アイスランド発の「ウィメンズ・ストライキ」の女性たちの結束をはじめ、シスターフッドのドレスコードについて、焼き芋とドーナツから考える労働環境など、読むと❝自分らしく生きてみよう❞と力が湧いてくる39篇のエッセイを収録。

ⓒShu Tomioka

写真提供/集英社 取材・文/田村幸子

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