◆親の介護によって人生が狂った3つの例
親の介護でキャリアプランがボロボロになる人は珍しくない。一人っ子かつ独身など、他に頼れる親族がいない場合は特に要注意となる。私たちが転職を支援した方にもそういった事例がある。まずはAさん(50代)の話だ。
Aさんは特別ハイクラスというわけでないものの、独り身であることもあって、それなりに趣味にもお金や時間をかけ、自分自身で納得できるキャリアを歩んでいた。しかし、親の介護が必要になったことで、その日常が崩壊したという。
Aさんの親も自立した生活を好む人で、あまり関わりを持たないまま最期を迎えると思っていたものが、突然介護が必要になった。Aさんは当初、親を見捨てるつもりだったというが、結局、見捨てることができず、一時的に仕事を辞め、親の介護中心の生活にシフトした。
その後、親が亡くなり介護からは解放されたが、壊れたキャリアはもとに戻らず、自身の老後の不安が増したという。Aさんは悠々自適なキャリアを歩むのではなく「親の介護も想定してゆとりある収入を得ておくべきだった」と後悔している話した。
また、Bさん(60代)は、親の介護によって短期間での転職と引っ越しを余儀なくされた。
もともと九州の生まれだったが、新卒での就職を関西でして以来、生活の拠点はずっと関西。故郷の九州よりも、結婚でも子育でも過ごした関西のほうが馴染み深くなっていた。
しかし、親の介護が現実味を帯びてくると、九州に戻ることを真剣に考えるようになったという。余裕を持ってUターンを計画し、住まいの確保から転職まで周到に準備して、生まれ故郷であり両親の住まいの近くに移住した。
だが、現実は想定どおりにはいかなかった。仕事内容も、職場の環境も、雇用条件も、かなりこだわって慎重に選んだが、実際はなかなか馴染めず、仕事ぶりも今一つ。しかも収入が想定以上に下がってしまった。親の介護にかかる費用も想定以上にかかり、財布をさらに圧迫した。
Bさんは結局、短期間で関西に戻った。仕事でも生活でも馴染みが深く、経済規模もより大きな関西で働くほうが年齢も上がった自身にとって収入が得やすいと考えたためだ。親には忍びない思いもあったが、老人ホームに入居してもらうことにした。費用差はそこまでなく、自身で介護することで節約するよりも、自身の収入を上げたほうが全員が幸せになるとの結論だった。
反対に、遠方の両親を自分の生活圏に呼ぼうとして失敗した人もいる。
Cさん(60代)は「自分の収入の維持が最優先」と考え、地方住まいの両親を首都圏に呼ぼうとした。しかし、両親ともに介護が必要になっているにもかかわらず、父親が頑として移住を了承しなかった。その結果、Cさんは時間の自由度が高い仕事への転職を余儀なくされ、多額の交通費も使って通いでの介護をする生活となった。
しばらく介護のための二拠点生活を続けると、父親が死去。一人になった母親を自宅に呼び寄せたことで、母親の介護は続くとはいえ生活はだいぶ楽になったが、遠距離介護生活によってキャリアが狂い、貯金もだいぶ使い果たしてしまったという。
ここまで例に挙げた人たちは、介護のために生活も仕事も翻弄されたものの、ある程度は、介護サービスを活用できた人たちだ。しかし、仮にこの人たちが使えた介護サービスがもっと少なかったとしたら、生活が完全に破綻してしまったかもしれない。我々が今後直面するのは、そういった壮絶な介護サービス不足の世の中だ。
【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中

