
真面目でがんばり屋な人ほど、実はダイエットの難易度が高くなりやすいことはご存じでしょうか? その理由と対策について、肥満・脂肪肝の専門医である尾形哲氏の著書『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(KADOKAWA)より、40代女性の事例をもとにみていきましょう。
〈本記事の登場人物〉
■山口 真理子さん(45歳・女性)
40代半ば過ぎの独身看護師。仕事の忙しさやストレスからくる不摂生な生活がたたり、体重は増加。疲れやすさや体の重さを感じて検査を受けたところ、肥満・肝機能障害・高血圧を指摘されてしまい、肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善を専門とする『スマート外来』を受診することに。一人暮らしの母の将来を案じ、健康な体を取り戻そうと決意するが……?
痩せられないのは「がんばりすぎる」性格にあった!
初めてスマート外来を訪ねたのは、寒さが厳しくなり始めた12月初旬だった。健康を取り戻そうと決意を固めたものの、正直なところ本当に改善できるのか半信半疑な気持ちを抱えていた。待合室に座っていると、その病院の雰囲気がよくわかる。受付の感じもいいし、お知らせも見やすい。さりげなくクリスマスのオーナメントが飾ってあり、うちの病院でもまねできないかとつい考えてしまう。
「今日の私は“お客さん”なのに、また仕事のことを考えている……」と気づいてハッとする。
自分の順番が来て、診察室に入るとO先生がいた。
「……そうですか。未病のうちに健康を取り戻したいと。真理子さんは自分のことも冷静に見られる優秀な看護師さんですね」
「あ、いえ。でもきっと更年期の影響もありますよね。太り方が前とは違ってきた気がするんです」
「ご存じのとおり、年齢とともに女性ホルモンのエストロゲンが低下すると、自律神経も乱れますから血圧も不安定になりがちです。同時に基礎代謝も下がるため脂肪をため込みやすくなる。筋肉量が減少するのも関係しています」
わかっていたつもりでも、面と向かって聞くと現実の厳しさに気持ちがくじけそうになる。先生はそんな私を見透(みす)かしたように、
「大丈夫。真理子さんなら、ちゃんと理解して取り組むことができますよ」
と言い切ってくれた。
「内臓脂肪というのは、胃、腸に流れる血管を覆う膜にたまっていく脂肪のことです。同年代の男性に比べて、女性は皮下脂肪はつきやすいのですが、内臓脂肪はつきにくく、メタボリック症候群のリスクは低いのです。なぜ女性に内臓脂肪がつきにくいか、ご存じですか?」
「いえ、聞いたことがありません」
「女性ホルモン、エストロゲンが内臓脂肪の増加を抑えてくれているのです。女性は閉経が近づくにつれ、エストロゲンが減ってくるので、若いときに比べて、内臓脂肪がつきやすくなります。それと同じ理由で、肝臓の細胞の中に脂肪がたまっていく『脂肪肝』になるリスクも40代後半から急激に高くなるんですよ」
ダイエットを妨げていた「食べ物ではない敵」の正体
今の私は、身長164cm、体重77kg。身長と体重から割り出すBMIが28.63。肥満度の分類で言うと肥満(1度)にあたる。そして体脂肪率は42%だから、かなり高い。また、肝機能の数値はAST26、ALT64、γ(ガンマ)-GTP37とこちらも危うい。おそらく脂肪肝も進行し始めているのだろう。
これまで見て見ぬ振りを続けてきたが、何か大きな病気に繫(つな)がることのないように改善したいと思っていること、そして目下(もっか)の困りごとはやたらと疲れやすく、夜勤の仕事がつらいことだと訴えた。
「本当にがんばり屋さんですね。真理子さんのような人は、人の世話にかかりきりになって、自分のことを後回しにしてしまうのでは? ほかにも日常生活の中で気になることがあるのではないですか」
これまでいろんな病院のいろんな先生を見ているが、そんなことを聞いてくださる先生は初めてだった。少し驚きながらも実家の母が1人暮らしで訪問介護やデイサービスを受けていて、「要支援2」に分類されていることを打ち明けた。
母には再三、実家に戻ったほうがよいかと尋ねていたが、まだ1人で大丈夫だと言うので何かにつけて様子を見に行くようにしていた。それがこのところは、玄関で転んだだの、診察券が見つからないだのと頻繁(ひんぱん)に電話があり、慌ててクルマで駆けつける羽目(はめ)になっていて、何だかんだと振り回されてばかりだ。
妹も同じ地域に住んでいるのだが、高校受験を間近に控える娘のことで頭がいっぱいで、「看護師をしているお姉ちゃんのほうがお母さんも安心でしょ」と言い、私に任せきりだ。家族のことはあまり人に話したりしないほうだが、思わず感情的になってO先生にぶちまけてしまった。
「そうですか。痩せられないのはいろんな心配事が重なっている上に、実際に実家との行き来でエネルギーを使い切ってしまっているからですね」
先生はさらに続けた。
「真理子さんは“我慢の容量”を使い果たしてしまっています。がんばりすぎているからダイエットが続けられなかったのですよ」
私は初めて自分の味方を見つけたような気がした。
