ストレスをとにかく1つ減らそう
「まずはお母さんのことで、負担を減らす対策を考えなければいけませんが、職場のほうはどうですか? ストレスを感じていることはありませんか?」
そう言われて、すぐに同僚の看護師たちの顔が浮かんだ。少し迷ったが、ありのままを話すことにした。
「私は独身だし、今の職場では古株なので、夜勤も規定のギリギリまで入れているんです。本当はちょっと減らしたいんですが、子どもが熱を出したとか言われると、シフトを交代してあげたりして」
「上司にちゃんと相談していますか?」
「一応……」
「例えば夜勤のない外来に移ったり、あるいは夜勤の回数を減らしてもらったりすることはどうですか?」
先日も看護師長から、「きついシフトに対応してもらって悪いわね、もっと働きやすい環境にしたいのだけど」と言われたことを思い出した。最近、1人産休に入って、シフトを回すのが大変なのだ。
考え込む私に、先生は「いい人でいるのをやめましょう」と告げた。
「あなたは1人しかいないんですよ。いろんな問題を抱えて、がんばりすぎてエネルギーが枯渇(こかつ)しそうになっているんですよ。疲れやすいのは、肝臓に脂肪がたまり、肝機能が低下していることも関係しています。まずは肩の力を抜いて、エネルギーをダイエットに回せるような環境を作ることから始めていきましょう。これはよくお話しすることですが、人は困ったことが2つまでなら対応できるけれど、それが3つにもなるとすべてうまくいかなくなる。心配事は2つまでに収めましょう」
希望を込めてうなずく私に、
「全部自分で抱え込む必要はありません。必要なときに、ちゃんと人に助けてもらわないと、できることもできなくなってしまいますよ」
と、先生は言ってくれたが、正直なところ私はまだ「そうしたいのはやまやまだけど、本当に可能なんだろうか……」と思っていた。
〈先生からの処方箋〉ストレス要因が1つ減るだけでエネルギーが復活します。
夜食や深夜のお菓子をやめよう
「次に、食生活についても見直しましょう」
「はい」
私は思わず姿勢を正した。
「食事以外でお菓子や甘いものは食べていますか」
「そうですね……。やっぱり夜勤のときでしょうか。大体3人で詰めているんですが、手持ち無沙汰というか、口さびしいというか。女性が数人集まればお菓子は欠かせないんですよね」
そう答えながら、20代、30代の後輩看護師たちは、同じように食べているのに全く体型は変わらないことにふと気がついた。それ以外にも、仕事の後にコンビニやスーパーに立ち寄り、食料品だけでなく各社が競い合うように売り出しているさまざまなスイーツを買って試すのが、私の一番の楽しみなのだ。
さらに出不精(でぶしょう)の私の元に姪(めい)がときどき遊びにきてくれるのだが、彼女は必ず袋いっぱいのお菓子をおみやげに持ってきてくれる。それを食べたら、さらなる肥満に繫がることはわかっているのに、どうしてもやめられない。
「我慢しないといけないことは、頭ではわかっているんですけど……」
「糖質を摂りすぎれば、脂肪となって体にため込まれてしまうことも、十分ご存じですよね。でも、それがもう習慣になっていて、簡単にはやめられないと思っていらっしゃる」
私がおずおずとうなずくと、先生は私の顔をのぞき込んで言う。
「何かを我慢するには、かなりのエネルギーが必要です。根本的な原因を解決しないままだったら、真理子さんには新たなストレスが増えるだけでしょう」
ケーキやクッキー、プリンに菓子パン。好きなものを食べている間はすべてを忘れて頭が空っぽになる。無心で口に運んでいるうちに、気づくとスナック菓子1袋を平らげてしまっていたりする。とても人には見せられない。私はどうしたいのだろう。
「さっきお伝えしたように、真理子さんはいろんなストレスを抱え込んでいて、もう自分でコントロールできなくなっているんです。我慢するためのエネルギーすら使い切ってしまっているということ。それが食欲にも繫がってしまうんです。ストレスの問題を解消するほうが先。食事の改善はその次ですね」
ここに来るまで、自分がそんなにストレスまみれになっているとは思わなかった。本当に習慣を変えることはできるのだろうか。
「夜勤中や仕事の後のお菓子をやめられる方法を一緒に考えていきましょう」
〈先生からの処方箋〉我慢のエネルギーを使い切ると食欲に簡単に負けてしまう。
尾形 哲
長野県佐久市立国保浅間総合病院
外科部長/「スマート外来」担当医
