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高額報酬なのに「数年間応募者ゼロ」…ヘッドハンティングのプロが語る「医師不足」に喘ぐ病院の実情

高額報酬なのに「数年間応募者ゼロ」…ヘッドハンティングのプロが語る「医師不足」に喘ぐ病院の実情

ヘッドハンティングにおいて、最も難しいとされるものの一つが、「医師(ドクター)」を対象とした案件だといいます。 今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏がドクターの人材マーケットの特徴とその特殊性について解説します。

加速するドクターの人材不足

医師(ドクター)を対象としてヘッドハンティングを手掛けるサーチファーム(人材紹介会社)は、日本でも極めて数が少ないと言えるでしょう。かく言う私も、現場時代にはドクターのサーチをライフワークのひとつとして取り組んでいました。その経験から断言させていただきますが、ドクターを扱うファームの少なさは、ひとえに医師の転職難易度の高さを要因としています。

その転職難易度の高さは、ターゲット(医師)の勤労環境の特殊性に起因しているわけですが、ドクターの人材マーケットを具体的に掘り下げると、その特殊性の内実が見えてきます。

①首都圏は人材の供給が比較的潤沢である一方、地方に行くほど医師不足が顕著になること。

②診療科によって医師の人気に格差があり、人材需給のバランスが極端に崩れてしまっていること。

近年の医療業界では、特定の領域における人材が極端に不足しています。地方はもちろん、首都圏でも同様にみられる傾向です。特に顕著な領域として、救急医療、循環器、呼吸器(外科・内科含む)、小児科、産婦人科などが挙げられます。以前は「花形」と言われた診療科目も、近年は医師不足に拍車が掛かっており、医師不足が顕著な診療科目を眺めると、医療過誤による訴訟リスクの高まりや、少子高齢社会における子どもの減少への不安視などが指摘されています。

一方、最近の若いドクターに人気なのは、心療内科や精神科だといいます。人気の理由として挙げられるのは、「オペの負担がない」、「夜勤がない」ことなのだそう。多くのドクターが重視する勤労環境の条件が、そのまま人材の偏りに反映されているといえるのではないでしょうか。

人材紹介会社が考える「魅力的な医療機関」とは?

医師不足に喘ぐ地方の官公立病院は、ドクターへの報酬が税金から補填されており、首都圏の病院に比べ、2倍以上の提示があるケースも見られます。しかし医師不足が加速する地方病院では、一人のドクターへの負担が大きくなっている働き方が敬遠され、いかに報酬金額を詰み上げようとも、「数年間応募がゼロ」というのも珍しくないようです。

そこでドクターのスカウトにおけるメソッドの一つとして、私は次のような考え方を持っています。それは「ドクターが働きたくなる、魅力を感じる組織でなければ、仕事を請けない」というものです。

人材エージェントとしては矛盾しているかもしれませんが、たとえば臨床経験が豊富であったり、学問的業績があったり、人間性が優れたドクターというのは、昨今文字通り引く手あまたであり、人材市場に出てくることはあまりありません。

その一方で、医師としての経験は豊富ながら、どこか人間性にクセがあるのか、短期間の転職を繰り返しているドクターもいます。それでも基本的に医師不足ですから、すぐどこかに雇用されるわけですが、やはり同様の問題を繰り返してしまいます。このあたりは民間企業と同じです。

ドクターは一般企業と比べ、お金や経験という要素だけでは簡単に動かないという特殊性があります。また、非常に多忙な先生方が多く、ゆっくり話を聞いてもらえる場面もありません。そのため、「医師が足りないから来てほしい」という募集、特に、先に述べたような不足感の強いドクターの採用を成功裡に導くことはほぼ不可能といえます。

噂が瞬く間に拡散するドクター業界のなかでも、多くのドクターに「この医療機関は魅力的だ」と思ってもらえるような医療機関でなければ、人材獲得を成功させることは極めて難しいと言えるでしょう。

「魅力的な医療機関」について、具体的には、このような要素が挙げられます。

①診療方針やホスピスの運営が非常に進歩的である、どのような患者も拒絶しないなど独自の哲学を持っている

②潤沢な資金を持ち、最新鋭の医療設備・機器を導入している

③特定の領域を中心に有名な医療チームや高い実績を誇る

このように、ドクターを惹きつける魅力がはっきりしていなければ、医療機関が誰もが認める優秀なドクターを迎えるのは容易ではありません。逆に、魅力ある医療機関には優秀なドクターが集まり、その結果さらに発展して陣容を強化していくことが期待できます。


慢性的な医師不足に悩み、なかなかドクターから選ばれない医療機関は、ますます人材難という悪循環に陥ってしまいます。今後、医療機関の優劣はより鮮明になっていくでしょう。そうした変化の中でこそ、ドクターのエグゼクティブサーチ(専門性の高い人材を探し出す仕組み)の重要性に目を向けていく必要があるのです。

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長

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