男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。
出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで...この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。
― あの時、彼(彼女)は何を思っていたの...?
誰にも聞けなかった謎を、紐解いていこう。
さて、今週の質問【Q】は?
▶前回:2回目のデート直前にLINE未読スルー。彼女がフェードアウトした理由とは
時計を見ると、もう22時を過ぎていた。
ようやく終わった打ち合わせの後、僕は六本木一丁目の駅へ向かいながら、杏にLINEを打つ。
― 健太:今週バタバタしてた。来週どこかで、ご飯行こう。
すぐに既読がついたので、僕は返信を待つ。
しかし返信はなかなかこない。結局返信が来たのは、翌日だった。しかも杏からの返信は、とてもそっけない。
― 杏:そうなんだ、忙しいんだね。
たったそれだけ。
「…なんか、冷たくない?」
思わず声に出してしまった。
良い感じで何度かデートをし、LINEのやり取りも続いていた杏とは、この日を境に段々と疎遠になり、結局、交際寸前で自然消滅となってしまった。
杏と出会ったのは、マッチングアプリだった。
丸の内の保険会社に勤める26歳。顔が可愛いのはもちろんのこと、清楚な感じが好印象で僕の方から「いいね」を押した。
すぐに会うことになったのだけれど、実際に会うと杏は小柄で可愛くてふわっとした雰囲気を醸し出していた。
「杏さんは、お仕事は何をされているんですか?」
「保険会社の総合職です。健太さんは?」
「僕はコンサルです」
「え〜すごい、優秀!でもお忙しそうですよね」
その言葉が、正直嬉しかった。
コンサルティングファームで働く32歳というのは、想像以上にタフな仕事だ。クライアントのプロジェクトが佳境に入れば、平気で終電を逃す。土日も資料を作る。それが当たり前の世界で生きている。
でも、コンサルという仕事は、ある種のブランドだ。忙しいけれど優秀、そういう文脈で見られる職業だ。だから僕は、少しだけ胸を張った。
「まあ、忙しいは忙しいですけどね。でも、その分やりがいはあって」
杏はこれに対しても、再び「すごい」と言ってくれた。
そしてこの初顔合わせから、僕たちは何度かデートを繰り返すことになる。初対面の際はホテルのラウンジでお茶をしただけだったので、2回目のデートは僕の方から、神楽坂にある和食屋さんへお誘いすることにした。
このデートは大成功だったと思う。
そして3回目のデートは、僕の仕事終わりに急遽会えることになったので、六本木のワインバーへ行くことになった。
「ごめんね、突然呼び出して。杏ちゃんが、空いていて良かった」
この日は金曜だったので、杏に連絡をしても難しいかなと思った。しかし杏はちょうどと友人と恵比寿でご飯を食べていたらしくタイミングよかった。
「ちょうど解散して、家へ戻ろうとしていた所だったので、良かったです」
「ナイスタイミング」
こういう偶然は、嬉しい。パズルのピースがピッタリと合ったようで、気分が良い。
「健太さんは?何をしていたんですか?」
「僕はクライアントと会食があって。予想より早く終わったから、連絡しちゃった」
「連絡もらえて、嬉しいです」
この日も、とても楽しかった。杏は聞き上手で、僕の仕事の話などでも、嫌な顔をせずにちゃんと聞いてくれる。
「でも、健太さんって本当にお忙しいんですね」
「そうなんだよ。ごめんね、なかなか会えなくて」
だけど正直に言うと、デートとデートの間が空きがちなのは、半分は本当に忙しいのと、週末ごとに「今日暇だよ」なんて突然LINEを送るのは、なんとなく格好がつかない気がしていたからだ。
でもそんな僕の気持ちをわかっているのか、杏は杏で、しつこく連絡をしてくることはなかった。
適度に期間が空いたら、お互いどちらかが連絡をして、落ち合う。
このタイミングと空気感がとても心地よく、気がつけば、杏と会い始めてから3ヶ月が経っていた。
杏と六本木のバーで落ち合った後。4回目のデートは、気がつけば1ヶ月も空いてしまった。
― 健太:また間が空いてしまってごめん!杏ちゃん、最近は忙しい?
― 杏:元気ですよ。健太さん、お忙しそうなで、連絡控えておりました。元気ですか?またご飯行きましょうね☺️
ただ、杏とLINEのやり取りはするものの、向こうから「来週土曜はどうですか?」とか、具体的な提示をされたことがない。
僕の方から具体的な日程を言えば良いことはわかっている。
ただ誘って断られるのが怖いというより、「こんなに何度も、自分から誘うのも必死に見えるかな」という謎のプライドが邪魔をしていた。
そんなことをしている間に、1ヶ月も空いてしまったのだ。
結局次のデートも僕から誘う形で、食通の友人に教わった、「美味しい」と評判の、麻布十番の『B-TRE』でデートをすることになった。
「何だか久しぶりだね。元気だった?」
「そうですよね。元気といえば元気ですし…普通です。健太さんは?」
この“普通”という言葉が、どうにも引っかかった。ただ、これは僕の思い過ごしだったのかもしれない。
「本当に忙しくて。新しいプロジェクト任されて」
「すごいですね!」
この日も、ワインを片手にデートは楽しく進んでいく。
会えなくて怒っている様子もないし、会うといつも通りのテンションの杏。こちらに対してすごく気を使ってくれているのも伝わってくる。
でも、それが重過ぎない感じでいい。
「杏ちゃんって、束縛とかしないタイプだよね?」
「はい、しないと思います。でも健太さんもしなさそう」
「しないけど、でも付き合ったら意外にマメだよ」
「そうなんですか?意外」
「あと、杏ちゃんってものすごく気遣いができる人だよね」
「どうなんだろう…。でも人より、色々と考えるタイプではあると思います」
二人の間に、自家製のパスタ「赤エビとウニのトンナレッリ」が運ばれてきた。
二人で「美味しいね」なんて顔を合わせながら、幸せな時間が流れていく。
「健太さんって、お店選びのセンスいいですよね」
「ありがとう。会食が多いし、食べること好きだから」
「そうなんですね」
そしてこの日、店を出た後、近所のバーでもう1軒飲むことになり、解散は24時を過ぎてしまった。
「遅くまでごめんね。今日はありがとう」
「こちらこそです。ご馳走様でした」
「本当に大丈夫?ちゃんと帰れる?」
「大人ですし、大丈夫ですよ(笑)。ありがとうございました」
「うん、じゃあまたすぐにね」
「はい」
こうして、流しのタクシーに乗って帰っていった杏。
しかしここからしばらくして、「今週バタバタしてた。来週どこかで、ご飯行こう」とLINEを送ったら、かなりそっけない対応になってしまったのだ。
― もしかして…終電を逃したのに、タクシー代を支払わなかったから?
杏に限って、そんな女性ではないと信じたい。
しかしそれ以外に、突然冷たくなった理由の検討がつかない。
もしかすると、杏は可愛い顔をして、猫を被っていただけだったのだろうか。正解がわからず、連絡が来なくなった杏に対して若干の未練を引きずっている。
▶前回:2回目のデート直前にLINE未読スルー。彼女がフェードアウトした理由とは
▶1話目はこちら:「あなたとだったらいいよ♡」と言っていたのに。彼女が男を拒んだ理由
▶NEXT:4月19日 日曜更新予定
「忙しい男」の本音は?

