
警察庁が発表した「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」によると、SNS型ロマンス詐欺は認知件数、被害額ともに前年に比べて増加しているようです。警察やメディア等が警戒を呼びかけられているにもかかわらず、被害が後を絶たないのはなぜなのか……弁護士が事例をもとに、被害者を待ち受ける「厳しい現実」について解説します。
人生最悪のゴールデンウィークになりそうです…55歳男性の後悔
「自分がこんな目に遭うとはまったく思っていませんでした」
会社員のタカシさん(仮名/55歳)。年収約600万円の独身男性です。
ある日、週末に楽しんだ趣味のソロキャンプの写真をSNSにアップしたところ、その写真に「いいね」が。そのアカウントを覗いてみると、相手は30代前後のきれいな女性でした。
彼女が投稿している写真にいいねを返すと、後日彼女からダイレクトメッセージが届きます。
「私もキャンプ好きなんです」
共通の趣味をきっかけに数日間メッセージでのやりとりが続いたあと、連絡はいつのまにかLINEへと移行していました。
毎朝の「おはよう」から夜の悩み相談まで、孤独だったタカシさんの生活は一変します。
メッセージのやりとりをはじめて約3ヵ月。タカシさんは思い切って「直接会いたい」と伝えます。「私も会いたい」とは返ってくるものの、予定は一向に合いません。
そんな日々が1ヵ月ほど続いたある日、ついに彼女から「付き合ってほしい」と告白されたタカシさん。大喜びで受け入れます。すると続けて、次のようなLINEが届きました。
「今年のGWは、一緒にキャンプに行きたいな。でも実は、副業のECサイトでトラブルがあって……。商品の差し押さえを解除しないと身動きが取れないの」
できたばかりの恋人から届いたSOS。直接会ったことはありませんが、数ヵ月におよぶスマホ上でのやりとりの末「ようやく会える」という喜びが、タカシさんから冷静な判断を奪いました。
タカシさんは彼女を助けたい一心で、約300万円を工面。連休に会えることを信じて、キャンプ場の予約も済ませていました。
ところが連休直前、彼女から届いた「GWの予定」は絶望的なものでした。
「ごめん、4月末までにあと100万円だけ追加で必要なの。これが解決しないと、会えなくなっちゃう……」
さすがに渋ったタカシさん。すると相手は、タカシさんの限界を察したのか、一切連絡がつかなくなってしまったのです。
「もしかして、騙された……?」
GWを目前に、タカシさんは藁にもすがる思いで弁護士に相談。果たしてタカシさんは、失ったお金を取り戻すことができるのでしょうか。
弁護士の見解
本件はいわゆる「ロマンス詐欺」の典型例です。詐欺(刑法第246条)に該当し得る行為ですが、問題は「回収の難しさ」にあります。
まず、相手の実在性や所在が不明確であることが多く、特定自体が困難です。また、仮に口座情報等が判明しても、資金は短期間で移動・引き出されているケースが多く、実務上は返金に至らないことも少なくありません。
さらに、本件のように自発的に送金している場合、形式上は「贈与」との反論を受ける余地もあり、法的構成の整理にも一定のハードルがあります。
こうした犯罪でもっとも重要なのは「被害回復」よりも「被害予防」です。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、会ったことのない相手からの金銭要求は原則として応じない、送金前に第三者へ相談する、といった基本的な対応が極めて重要になります。
実際、警察庁が発表した「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」によると、SNS型ロマンス詐欺の認知件数は5,604件(+1,780件、+46.5%)、被害額は552.2億円(+151.4億円、+37.8%)と、警察やメディア等が警戒を呼びかけられているにもかかわらず、認知件数、被害額ともに前年に比べて増加しています。
感情的には理解できる経緯であっても、法的には保護されない場面があるという点を、冷静に認識しておく必要があるでしょう。
山村暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士
