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需要を生み出す新たな世界通貨?──トランプ政権が仕掛ける「ステーブルコイン革命」とドル覇権の再編

需要を生み出す新たな世界通貨?──トランプ政権が仕掛ける「ステーブルコイン革命」とドル覇権の再編

トランプ政権が打ち出したステーブルコイン政策は、単なる暗号資産規制の整備にとどまらない。通貨発行の主体、信用の源泉、そしてドル覇権のあり方そのものを塗り替える可能性を秘めた“金融革命”だ。民間主導のデジタル通貨を軸に、米国は再び世界の資金循環を掌握しようとしている――その構想は、ユーロダラー、オイルダラーに続く「第三のドル覇権」の幕開けとなるのか。本記事では、武者陵司氏の著書『トランプの資本主義革命』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、暗号資産をめぐるトランプ政権の動向と、米ドル覇権劇第三幕の開幕を予感させる「ステーブルコイン革命」について解説する。

ステーブルコインによる信用革命

トランプ政権の改革のなかでも、際立って歴史的意義を持つものは、ステーブルコイン革命かもしれない。新通貨制度の発明とすら見られる動きである。

トランプ大統領が成立させた「暗号資産新法」は、将来金融の主戦場であるデジタル通貨の世界を、基軸通貨ドルが支配するという狙いがある。「クリプトダラー」ともいうべきもので、1950年代のユーロダラー、1970年代のオイルダラーに次ぐ、ドル覇権劇の第三幕となる可能性がある。暗号資産新法の法律名は、「GENIUS法(Guiding andEstablishing National Innovation for US Stablecoins Act)」といい、ステーブルコインの規制枠組みを確立させるための法律で、2025年7月18日にトランプ大統領が署名し、法律として成立した。

その内容は、

①法定通貨米ドルと価値が連動するステーブルコインの発行を認め、一般交換手段として流通する仕組みを整える。

②ライセンスを与えられた発行業者に、ステーブルコインの価値を裏付ける米ドルまたは同等な流動資産による「完全な担保(準備金)」の保有を義務付ける※1。

③ステーブルコインの発行は民間企業に限り、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)の発行は禁止する。ただしステーブルコインと法定通貨ドルを1対1で交換できるよう、中央銀行に暗号資産(ステーブルコインやビットコインなど)を準備資産として保有することを認める※2。

というものである。

※1 この準備金として認められるのは、米国通貨、連邦準備銀行口座残高、即時償還可能な預金、満期93日以内の米国債、またはこれらのトークン化資産など、流動性が高く価値の安定した資産に限定される。

※2 発行主体が倒産した場合に備えるための、銀行預金のような保険制度は整備されていない。発行主体が倒産した際には、中央銀行にステーブルコインと米ドル交換を義務づける。中央銀行は民間発行のデジタル通貨(ステーブルコイン)の保険役に成り下がる。

事情が入り組んでいてわかりにくいが、GENIUS法の本質を大胆に整理すると、通貨発行の特権を、権威の象徴法王庁=中央銀行から民間・市場へと大転換させることであろう。

すなわち、

①通貨発行の主体:政府・中銀から民間・市場に

②通貨価値の源泉:これまでの政府権力(=徴税権)から、ブロックチェーンに集約される技術と市場の英知に

③通貨流通の範囲:国境を越え、サイバー空間も含めた全宇宙に

という大構想が見えてきた。

バイデン政権までのFRBの仮想通貨戦略は、CBDC(中銀が発行するデジタル通貨)であり法定通貨の1形態と考えられていたが、それが全否定されたのである。ECBや日銀、中国人民銀行など、他の中央銀行も考えていたCBDC(中央銀行発行の暗号資産)は梯子を外された形である。

需要を生み出す新たな世界通貨

ステーブルコインという新たな通貨発行は、米国にとって新しい需要創造手段になると思われる。第一に通貨発行企業は担保として、主に米国国債の保有が義務づけられるので米国国債需要が高まる。そして、ステーブルコインの発行を海外企業に認めれば、米ドルの信用創造、米ドルの需要を一層、強めることにつながる可能性がある。これが米ドル覇権の強化につながる可能性は大きい。

ステーブルコインを広く普及させるために、米国は確定拠出年金制度「401(k)」における暗号資産への投資を許可する大統領令に署名し、個人投資家が退職金口座で暗号資産にアクセスできる道を開いた。トランプ政権の暗号資産へのアプローチは、規制によって業界を抑え込むのではなく、イノベーションを阻害しない形でのルールづくりを進め、米国がデジタル資産分野での主導権を握ることを目指している。

ところでいま全知全能の神が、AI時代の経済と金融を采配するとしたら、何を行うだろうか。増大する供給力、貯蓄余剰、増加する失業に直面して、最適の需要創造を、信用創造を通して行うだろう。必要な需要創造を、最適な金利水準とリスクアペタイトによる信用創造を采配することによって行うはずである。必要な需要水準は、失業率とインフレによってモニターされる。これらのオペレーションを限られた知的エリートに委ねるのか、AIで強化された市場に委ねるのか。トランプ政権は明らかに後者を選択したのである。ドルが世界通貨として新たな飛躍を遂げるかもしれない。

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

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