
家族間のお金のやりとりは、情が絡むぶん、判断が難しいものでしょう。特に子どもから高齢親への金銭援助を行うケースでは、「子自身の老後資金が貯められない」「関係が破綻する」といった深刻な問題に発展することもあります。援助のつもりが、いつの間にか依存されていた……そんな例が後を絶ちません。本記事では、田島夫妻の事例とともに、老親へのに金銭援助ついて、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説していきます。
安易な「親子ローン」が招いた悲劇
75歳の田島正男さん(仮名)は、73歳の妻・幸子さん(仮名)と二人暮らし。年金収入は夫婦で月約20万円で、貯蓄はほとんどない状況です。
夫妻には一人息子の雅志さん(仮名/43歳)がいます。数年前に結婚するまで親子3人同居していましたが、現在は雅志さんが隣県に家を建てて妻の陽子さん(仮名/40歳)と、小学生の娘との3人暮らしです。しかし、彼の肩には、自分の家庭とは別の重荷がのしかかっていました。
もともと実家は、雅志さんが20代のころに父・正男さんと連帯債務で住宅ローンを組んで購入したものでした。まだ若く、金融知識も乏しかった雅志さんは、父にいわれるがまま契約し、債務を背負ったのです。
結婚後もしばらくは同居を続けていましたが、陽子さんと両親の折り合いが悪化。家族の平穏を守るため、雅志さんは新たにローンを組み、自分たちの家を購入して別居する決断をしました。
しかし、このことが田島夫妻の生活を大きく変えることになります。
月8万円の仕送り、積もる息子の“不満”
雅志さんが家を出たことで、田島夫妻の家計は一気に苦しくなりました。住宅ローンの残債があり、年金だけでは返済が難しい。そこで正男さんは、雅志さんにローンの返済分(月約4万円)と、生活費(月4万円)の援助を頼んだのでした。
雅志さんは「自分が連帯債務者だから」と、負担を続けることに。
しかし、次第に彼の心にはしこりが生まれていきます。そもそも連帯債務になったのは、父にいわれるがままサインしただけ。そのうえ、自分の家のローンも抱えるいま、この支出はあまりに重い負担でした。
そんななか、実家に立ち寄った際に目にしたのは、スーパーの寿司の空容器が重なり、酒の空き瓶がパンパンに入ったゴミ袋、つけっぱなしの暖房……。
「少しは節約したらどうか」と伝えても、「贅沢なんてしていない」と返されるばかり。そんなやりとりが何度か続いたある日、雅志さんはついに覚悟を決めました。
