話題が逸れれば、診断の精度低下・処方ミスにつながる恐れも
耳鼻咽喉科の対象とする疾患は多岐にわたります。そして、複数の症状を同時に自覚して来院する患者も少なくありません。そのため、診察室での患者の説明が複数の症状の間を行き来し、話題が逸れやすい傾向があります。
たとえば、「咳」で受診した患者が診察の終わり際に「そういえば耳もかゆくて、1ヵ月前に耳掃除をしてからなんです…」と話し始める。あるいは「のどの痛み」で来院した患者が、終了間際に「めまいもあるんですけど、大丈夫ですか?」と唐突に尋ねる。また、兄弟で受診した場合、2人目を診察している最中に母親から、「やっぱりさっき診てもらったお兄ちゃんの耳掃除もお願いします」と追加依頼をされることもあります。
これらは患者にとって、思い出したことをその場で伝えたいという自然な気持ちの表れであり、もちろんその気持ちは十分に理解できます。しかし、このようなタイミングでの問いかけは医師の集中力をそぎ、診断の精度低下や処方ミスなどにつながるおそれがあるのです。
診察室で訪れる「医師の沈黙」のワケ
電子カルテが普及し始めた頃、「医師はパソコンばかり見て患者を診ない」という声が多く聞かれました。実際に、電子カルテ入力中の医師は、得られた情報を正確にまとめ、誤りなく記録することに集中しています。このタイミングで話しかけられたり、質問されて回答を求められたりすると書きかけの内容を失念したり、記載ミスにつながるおそれがあるため、どうしても入力に集中せざるを得ないのです。
また、診察室でおとずれる医師の沈黙も、患者にとって居心地の悪い時間に感じられるかもしれません。しかしその沈黙は、医師が情報を整理し、病気の可能性を検討し、治療方針を決定している大切な時間です。この瞬間に会話が割り込むと、思考の連続性が断たれ、診療の精度が低下する原因となります。
